ハーフエルフの寿命は人間よりずっと長い。けれど、そんなハーフエルフでも100年の時が流れるのはあまりにもゆっくり過ぎる。
あたしは溜め息を付いた…意中のアイツの事を思い浮かべながら。
思えばケンカばかりしてたっけ…もうちょっと素直になっておけば良かったのかな。ううん、終わった事を考えても仕方無い。
あたしはまだ実の青い野イチゴの株を持って外に出た。お母さんが書き残した本の中に野イチゴの栽培方法が載っていて、あたしはそれを実戦してる。真っ赤な野イチゴを実らせると恋が叶うって、エルフの恋愛成就のおまじないなんだって。
昨日と同じ今日、そして明日………。
100年も何もしないで過ごすのは虚しいもん。だからせめて植物を育てていれば、淋しさを紛らわす事が出来るし、成長する植物を見て時間の経過を見る事も出来るから、一石二鳥ってわけ。
あと50年………。
お父さんがいなくなってから、ローンヴァレイの管理はあたし1人でやってる。以前はクラースがミラルドさんと一緒に訪ねてくる事もあったけど最近はやっぱり歳のせいか、その回数も減ってきている。
2人がいなくなっちゃったら、あたしは独りぼっち………。
ううん、そんな事考えちゃダメだよ。あたしはちっとも淋しくない、淋しくないよ。
でも…やっぱり、チェスターに早く逢いたい。クレスにも、ミントにも。
一筋の涙が頬を伝わった───。
そう言えば、ダオスを倒した後の夜、ミントにアイツの事を相談したらこんな事を言ってたっけ。
『逢えない時間が愛を育みます。チェスターさんもきっと同じ気持ちでいらっしゃいますわ』
ミントって本当に強いよね…ってそう思ったよ、これを聞いた時は。
信じていよう…きっとチェスターもそう想っていてくれるって。そして、今度こそ素直になろう…アイツが好きだって。
だから、お願い…お母さん。少しだけあたしに力をちょうだい。
そして───。
幾年の月日が流れたのか、あたしにも分からなくなっちゃうぐらいの時が流れた。確かにあの時別れてから100年の歳月は過ぎたけど、あたしがトーティス村へ行ってもいいか分かんなくて…。
だって、アイツはきっとアミィちゃんの事でずっと悩み続けてる…。あたしはやろうと思えばアミィちゃんを救う事だって出来たのに…なのに、彼女を見殺しにして…たとえ、それが正しい歴史のあり方だとしても………。
トントントンッ。
不意に小屋のドアを叩く音が聞こえた。こんなところに人が訪ねてくるなんて珍しい。あたしはドアを開けた。
「誰?」
見間違うはずなんて無かった…。だって、それはあたしがずっとずっと気が遠くなる程待ち続けていた人物だったから…。
「久し振りだな、アーチェ」
「…チェスター!」
気付かないうちにあたしは顔を歪めていたみたい。まるで今にも泣き出さんと言わんばかりに。
「おいおい、泣くなよ…ったく」
「だって…お父さんもクラースもみんないなくなっちゃって………ずっと、淋しかったんだもん」
気が付いたら涙で洪水を作ってしまいそうな程あたしは泣いていた。
チェスターは頭を掻き、そっぽを向きながら続けた。
「だったら、トーティスに来ればいいだろ。クレスもミントもいる。少なくともこれからは淋しい思いはしないぜ」
「…あたしが、トーティスに行っても…いいの?」
「あぁ、勿論だ」
あたしの心配は結局ムダに終わった。勿論、それが表面上の事だって分かっているけど。
ああ見えてアイツは優しいからきっとお前のせいじゃないって言ってくれると思う。けど、だからと言ってアミィちゃんの事が元通りになるわけじゃない。
あたしじゃ…チェスターを慰めてあげる事も出来ない。だって…いつも、ケンカになっちゃうから。
「そういや、お前。イチゴなんか育てているのか? 美味そうだからオレが食ってやるぜ。ありがたく思えよ」
「何よ〜、その言い方は! アンタなんかに食べさせるなんて勿体無いってば! アーチェ特製の野イチゴなんだから!」
「あんだけ一杯あるんだから少しぐらい食わせろ」
「う゛〜もぅ…」
ほら、結局ケンカになっちゃった…。でも、これがあたし達なんだよね………。
あたしはイチゴを採りに外へ出て、しみじみとそう思った。
あたしはチェスターにイチゴパフェを振る舞った。××料理人なんていうありがたくない称号があっても、デザートだけは得意だったもん。今回のだって失敗してないはず…たぶん。
とは言え、何だかやっぱり緊張する。昔はこんな事無かったのに…。
「…どう?」
あたしは恐る恐るチェスターに訊ねた。
「甘酸っぱいな…普通のイチゴなんか比べもんになんない程美味しいぜ。ほら」
「………!!」
あろう事か、チェスターは自分で咥えたイチゴをそのままあたしの唇に押し付けた。
「んっ…はぁ……チェスター! 何すんのよ、もぅ!///」
「わりぃ、わりぃ」
「ほんっともぅ、スケベ大魔王なんだから!」
顔が熱いのが良く分かる。それに対してアイツは大して悪びれもせず悠然と構えてる辺りが何だかムカツク。
今度仕返ししてやるんだから…。あたしは心にそう誓った。
「眠れない…?」
「あぁ」
「なら、少し散歩して来よう。風が気持ちいいよ」
あたしはチェスターを外に連れ出した。
谷に掛けられた釣り橋を渡り、行き着く先はシルフが住処にしているあの場所。
「いい風だな…」
「でしょ?」
あたし達は地面に腰を下ろした。
「甘酸っぱい匂いがするな…イチゴの。いい香りだ」
いつの間にかチェスターは後ろに回り込んでいて、あたしはその腕に抱き竦められた───。
野イチゴはあたしがトーティスに住むようになってからも毎日ローンヴァレイまで来て世話をしていた。さらにそのイチゴはベネツィアやユークリッドへ出荷。瞬く間に人気になり、今ではわざわざトーティスに出向いてあたしに直接買いに来る人までいるくらい。
そしていつからか、人々の間で噂になっていった。ローンヴァレイの野イチゴは恋を実らせる魔法のイチゴだ、と───。
後書き
久々のTOPですよ! いやぁ〜昔はこのカップリングが凄く書きやすかったのですが、時代は変わるもんですねぇ…特にチェスターが書き辛いの何の!(汗) 好きなキャラクターなのに上手く書けないなんて何だか不甲斐無くて仕方無いです(; ̄ー ̄川 この元ネタは私が1年以上前に考えたものでしたが、最近になって蒼竜さんに手直しを加えて頂きました。というわけで最後になりましたが、私の良き相棒の蒼竜さんにこの小説を捧げますvvv
プロット ※要反転
アーチェ1人称。
過去のローンヴァレイにて。野イチゴのおまじない(=大切に育てると恋が実る)をする。
時間が流れ…。
チェスター「お前。イチゴなんか育てているのか? 美味そうだからオレが食ってやるぜ。ありがたく思えよ」
…とか(笑)
畑一面野イチゴに。チェスターに食べさせる。
最後に野イチゴはベネツィアへ出荷。