Distance

「さよならは、言わないよ」
「ああ、そうだね」
 クレスが言った。いつもと、変わらない笑顔で。
(どうしてあいつはこんな時にも笑ってられるんだろうな………)
 オレは笑うことができなかった。自身のプライドが辛うじて表情を保っているに過ぎなかった。
「でも………100年後にしか会えないなんて淋しすぎるよぉ………………」
 アーチェは涙で顔を歪めた。
「泣くなよ。会えなくなるわけじゃ、ないんだぜ」
 オレ達は元々この時代の人間だ。だから………アーチェにも会おうと思えば会いに行ける。
 だが、アーチェは違う。あいつにとっては───たとえ不老長寿に限り無く近いハーフエルフといえども、100年の時は長いんだろう。
「うん………」
 アーチェ………そんな顔するなよ。
 思えばアーチェとは初めてあった時からケンカばっかだったな。本当は素直になれなかったことを少し後悔している。………少なくとも、オレはな。
「私はもう、会えないな………」
「クラースさん………」
 そうか、クラースの旦那とはもう会うことはないんだな。旦那はこのオレでさえ、正直尊敬していた。オレ達の意見を1つに束ね、作戦を考え、オレとアーチェの口ゲンカを仲裁し、見事にパーティを影から支えていた。
 まさにクラースの旦那がいたからオレ達は安心して戦ってこれたんだ、とオレは思っている。
「クレス、そんな顔をするな。前にも言ったが私はクレス達に会えて良かったと思っている。………………アーチェ、そろそろ帰らなければならない」
「分かったよ………」
 アーチェの顔が、深紅の瞳が、無理に笑おうとしている。
「またな………」
 オレはアーチェの桃色の頭の上にぽん、と手を乗せた。
「うん………」
 これでいい、今はまだ素直になる時でない。
 今度、再会できた時………きっと自然体でいられるはずだから。
「時空(とき)の剣よ! 私達の時代へ!!」
 クラースの旦那の声と共に、2人の姿は消えていった。
「行っちまったな………」
「………チェスター」
 全てお見通しということか。
 クレスには………昔からそうだったが、オレの考えてることは全部分かってしまうらしい。
「さぁ、オレ達はオレ達のやることをやらないとな。トーティスを再建するんだろ」
「ああ!」
 悲願のト−ティス村再建。早く元の村に戻すことが、今のオレ達にとって1番の目標だ。
 だが………。
 オレは………諦めが悪いのかもしれない。あいつの顔が、声が頭から離れようとしない。
「………チェスター」
「あ?」
「村の再建が終わったら、アーチェを探しに行こう! きっとこの時代のどこかにいるはずだ!!」
 いつでもクレスはオレの全てを見透かしている。
「ああ!!」
「私も一緒に行ってもいいですか?」
 と、ミント。当然いいに決まっている。
「もちろん!」
 クレスが喜んで答えた。


 アーチェ。
 オレはきっとお前に会いに行くぜ。
 再会した時、オレは言わなければいけねー言葉があるからな。
 だから、それまで待っててくれよ。
 オレはどこまでも広がる青空に誓った───。

後書き

 エンディングのチェスアーでした。この前やっとクリアしたから、その記念にでも。エンディングはクラミラとか、ルーチェとの再会、ト−チィス再建(執筆済)など、書きたいことが目白押しです。迷いに迷いを重ねて、チェスターsideでアーチェとの話を書いたのですが、いかがでしたか? 楽しんで頂ければ幸いです。






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