剣に想いを込めて 後編

「無茶だぜ、あんなのと戦うなんてよ」
 ここはユークリッドの宿屋の一室。
 武術大会の後はユ−クリッド城の医務室の使用が許されているが、城では落ち着かない、というクラースの意見が採用され、今に至っている。
「クレスさん………」
 ミントは思わず、杖を手に取った。
「ミント、止めるんだ。気持ちは分かるが目を覚まさなければ、法術を使っても逆にクレスの身体に負担を掛けるだけだ」
 確かにクラ−スの言う通りである。
 癒しの神力───法術は身体の治癒能力を一時的に増強させ、体力を回復させる。当然ながら昏睡状態のクレスに対して使えば、余計に負担が掛かる。
「目が覚めるのを待つしかないですね………」
 すずが俯きながら言葉を濁した。
(そうだ! いいこと思いついちゃった)
 アーチェが手招きでそーっとチェスターを呼ぶ。気付かれないように、こっそりと。
「(何だよ、アーチェ)」
「(あのね、ごにょごにょ………)」
 アーチェはチェスターの耳元でそっと囁く。
「(お前、こんな時によくそういうこと思いつくよな)」
 チェスターは正直呆れていたが、まんざらでもないという顔をしていた。
 アーチェがイタズラを実行しようとみんなに出した、1つのある提案。
「ねぇ、とりあえず買い出しに行って来ない?」
「でも、クレスさんが………」
 不安そうなミントの顔。
「ミントはここに残っていろよ。俺がこのわがまま娘………じゃなかったアーチェと行ってくるからさ」
(ほう、そういうことか)
 クラ−スにも2人がやろうとしている意図は伝わったらしい。
「じゃあ、私は情報収集を兼ねて酒場にでも行くとするか」
「あ、私もついて行きます」
 そう言うと、クラースとすずはさっさと部屋を出て行ってしまった。
「そういうわけだから後はよろしくね、ミント」
「はい、分かりました」
 アーチェとチェスターも同じように部屋から出て行った。


(トーティスが、燃えている?)
 チェスターが注意を促したその先、それはト−ティスの村がある方角だった。
「クレス、急ぐぞ!」
「これは?」
「んなもん、ほっとけよ」
 クレスとチェスターは先程まで猪狩りをしていた。巨大な猪を仕留めて、大喜びをしていたところだったのだ。トーティスの村と精霊の森───通称、南の森はそう離れてはおらず、2人も急いで戻って来れたのだが。
「この有り様は………」
「………一体誰がこんなことをしたっていうんだよ!」
 そこにはほのぼのとした村の面影はなく、見るも無惨に焼け落ちた家々と1人残らず残殺された村人がいた。
「俺は、家を………アミィを見てくる!」
 チェスターは脇目も振らずに走った。最愛の妹───アミィだけは生きていると、一縷の望みを胸に抱きながら。
(父さんと母さんは………!?)
 クレスは自宅の方向に目を向けた。すると………。
「父さん、母さん!!」
「クレス、早くここから離れ………るんだ」
「ペンダントを………渡し、てはだめ………」
 その一言だけを遺し、2人は合わさるように倒れた。
 雨が、その悲惨さを物語っていた───。


「父さん! 母さーん!!」
 がばっ!
 布団が勢いよくはね除けられる。クレスは背中にびっしょりと嫌な汗をかいていた。
「はぁはぁ、夢、か………」
 全ては夢だったのだ。実に嫌な、今でもはっきりと覚えている、余りにも凄惨な過去の、記憶。
「クレスさん………落ち着いて」
「ミント………うっ!」
 いきなり起きた反動がクレスを襲った。
「クレスさん、しっかり! ………ヒールッ!!」
 ミントが愛用のロッドに両手を添えて法術を唱えた。すると、みるみるうちにクレスの身体が癒されていく。
「ありがとう、ミント」
「いえ………。ひどく、うなされていたようですが………」
 ミントは杖を持ったまま、クレスの側にある椅子に腰掛けた。
「夢を、見たんだ。僕達の村が………滅ぼされる夢を」
 こんなにも力をつけたというのに。
 過去の世界と現在の世界、2度に渡ってダオスを倒しているというのに。
 未だにクレスは自分が無力だと思い続けている………。
 ミントにはそれが痛い程よく分かった。
「クレスさん」
 ミントは悲痛に顔を歪めているクレスに向かって呼び掛けた。
「何でも、その………考え込まないで下さい。相談事なら………私がお聞きしますから」
「うん、ありがとう」
 クレスはミントのそのさりげない気遣いがとても嬉しかった。
「不思議と気が楽になったよ。これも、ミントのお陰かな?」
 そのままクレスは仰向けに寝ると、閉口した。
 ミントも同じように俯いたまま黙っている。
 長い沈黙が続いた。
「………護りたかったんだ、今度こそ………」
「え?」
 唐突に繰り出されたクレスの言葉。
「もう、誰にも渡さないと、この剣にかけて誓ったんだ………」
「だから、あんな無謀な戦いを………?」
 クレスは天井を見たまま黙って頷いた。
 確かに無謀な戦いだった。勇気と無謀を吐き違えてるともいえなくはないくらいに。
 しかし、そうまでしても護るべきものがクレスにはあった。
「クレスさん、生命は大切にして下さい。でないと、私は………」
「今度からは気をつけるよ」
「さぁ、少し身体を休めて下さい」
 クレスは、そうだね、と頷いて頭まで布団を被った。
 先程から心臓が早鐘を打っている。
(怪我のせい………だけじゃないよね、きっと)
(クレスさん………私は………)
 ミントは布団の下にあるであろうクレスの顔を思い浮かべ、そっと微笑んだ───。

後書き

 何か滅茶苦茶です(汗)そういやイヤリングは何処に? きっと後でクレスが返したはず(爆)後半なんか言ってることわけ分からん! って感じです(あわわ)クレスの護りたいものっつーのはまぁ、具体的には言ってませんが、たぶんミントのことだと(笑)(←自分でもよく分かっていない)ちなみにちょこっとだけ隠し味にチェスアーが入っています♪ これを書いていた時は珍しく音楽を聴いていたのですが。何を聴いていたかっていうと『夢は終わらない〜こぼれ落ちる時の雫〜』と『Starry Heavens』の2曲が主です。でも、シンフォニアは未プレイ( ̄ー ̄; ヒヤリ

inserted by FC2 system