剣に想いを込めて 前編

 クレス達一行はユークリッド城ヘと向かった。目的は、武術大会。
「自分がどれぐらい強くなったか試したいんだ」
 クレスのこの一言が原因である。
 クラ−ス曰く、
「我々は時間がないのだ。そんなことをしている場合ではないだろう」
 と言って最後まで渋っていたのだが、
「いいじゃん、クレスがやりたいって言うんだからさぁ」
「自分の技量がどれくらいか知るのは別に悪いことじゃないだろ?」
 という風に、アーチェとチェスターに押し切られてこのような形に至ったのである。
「手続きを済ませてくる」
「クレスさん、待って下さい! これ………」
 ミントが差し出したのは黄金に輝くユニコーンのイヤリング───ミントの母、メリル=アドネードの形見の品だった。
「そんな大事な物は受け取れな………」
「お護り代わりに持って行って下さい」
 ミントはクレスの声を遮り、掌にイヤリングをそっと置いた。
「無理はしないで下さいね」
「うん、分かった」
「あたし達はギャラリーで見てるから」
 仲間と別れ、クレスは係員からルールの説明を聞く。闘技場内では公平にするため、アップルグミ3つとミックスグミ1つしか回復アイテムは使えないが、リキュールボトルやパナシーアボトル、スペクタクルズといったアイテムは持ち込みが許可されている。
「説明は以上です。こちらから闘技場へと向かって下さい」
 クレスは頷いた。


「挑戦者が現れました!! 彼の名はクレス! 出身地は………トーティス? 随分古い地名だな………あ、ミゲール出身の剣士です!!」
 クレスの登場と共に場内がわぁぁぁーっという歓声に包まれる。
(あ、つい癖でト−ティスって………)
 アセリア暦4354年───つまり、クレスが本来いるべき場所から未来に当たるこの世界では、トーティスはクレスの父親ミゲール=アルベインの名前を冠し、以前の悪夢が嘘であるかのように華やかな街になっている。
 だから、司会者もそのように思ったのだろう。
「クレス、がんばれぇ♪」
「負けるんじゃねぇぞー!」
 失敗したなぁー、と思っていると丁度真正面のスタンドからチェスターとアーチェの声援が聞こえてくる。
 クレスはああ、と短く頷き、視線を投げかけた。
「では戦闘を開始します! まずは1匹目だぁ!!」
 仕切りの向こう側から現れたのは1体のスケルトン。旅を始めたばかりの頃、地下墓地で遭ったのと全く同じだ。
(一撃で決める!)
 勢いをつけて跳躍し、剣を振り下ろす。
 あれからかなり腕を上げているクレスにとっては難無く倒せる相手だった。
「よしっ、次っ!」
 剣を軽く握り直し、次に備える。
「さあ行こう! 続いて2匹目だあ!!」
 2匹目はイカ型のモンスター、クラーケン。
(雷に弱いだろうな………)
 絡み付かれると厄介なので距離を取りつつ、今までの経験を元に冷静に考える。
「奥義、襲爪飛燕脚っ!!」
 雷がクラーケンの頭上に落ち、その直後にクレスの2段蹴りが命中。
 だが、クラーケンの体力は侮れない。
 その長い足を使って反撃を仕掛けてくる。それをクレスは盾を使って防ぎ、突きで応戦。
「秋沙雨っ!!」
 10回にも及ぶ、連続的な突きでクラーケンを一気にノックアウトさせると、ギャラリーの声援がまた一段と増した。


「油断しちゃ駄目だ!」
 快調に5匹目のシュヴァリエを倒し、残るは後3匹。
「グレート、クレス! こいつはラベルが違うぜ!」
「それって、レベルじゃ………」
「細かいことは気にするなよ! ほら、そんなこと言ってると6匹目が出てくるぜぃ!」
 クレスの余裕のツッコミに会場はどっと笑いに包まれるが、さすがは司会者。進行の手を緩めることはない。クレスはクレスで、余裕の笑みを消し、真正面の仕切りに視線を注ぐ。
 6匹目。『必殺の樫』を意味するマイティオーク。過去の水鏡ユミルの森にて戦ったことのあるモンスターだ。
「うわっ!」
 『リンゴ乱舞』を喰らい、クレスは大きく体勢を崩してしまう。そこをすかさず、マイティオークが根を地中から突き上げ、クレスの脇腹を掠める。
「くっ! 鳳凰天駆!!」
 鳳凰のオーラを身に纏い、無我夢中でマイティオークの弱点を攻める。樹のモンスターだから当然炎には滅法弱く、クレスの紅いオーラが消える頃にはマイティオークは黒炭のようになっていた。
「なかなか手強かった!」
 その後も7匹目のクレイゴーレム、ラストのバジリスクキングを必殺技や奥義を駆使し、クレスが攻め勝った。
「完璧だぜ!!」
 クレスは小さくガッツポーズをしてみせる。
「やりました! ついに8連勝達成!! おめでとう、クレス!」
 盛り上がりも最高潮になったところで、クレスは周囲に手を振る。もちろん、正面にいる仲間達にも。
「ついに8連勝したわけだが、最後にもう1匹、強い魔物がいる。挑戦するかい?」
 クレスは頷いた。念を押すように司会者はもう1度聞いたが、それでもやはりクレスは首を横には振らなかった。
「よーし、気に入った!! その勇気を讃え、体力を回復してやろう!!」
 クレスはエリクシールとパナシ−アボトルを受け取り、一気に飲み干した。これで体調は挑戦前と同じ万全の状態になった。
「ではいくぞ!! カモーン、ミュージック!!」
 仕切りの向こう側から現れた茶褐色の獣───ガルフビーストが爪を振り回し、巨大な身体を捻ってクレスに突進してくる。
「虎牙破斬!」
 切り上げと切り下ろしによる連続攻撃でクレスが迎え撃つ。
「うっ!」
 技を出し終わった直後を狙われた。ガルフビ−ストの鋭い爪がクレスの腹部を直撃し、その衝撃でクレスは後部へと吹き飛ばされてしまう。
 それでも、まだ辛うじて立ち上がれた。
(僕は負けられない!)
 口から滴る血を拭き、剣を構え直す。
「獅子戦吼っ!!」
 今度は逆にクレスが突進を仕掛ける。そして剣に闘気を凝縮し、獅子の形となってガルフビーストを飲み込む。
 だが、ガルフビーストも負けてはいなかった。闘技場の地面を砕き、石片の刃を雨のように降らす。
「うわぁっ!」
 クレスは思わず盾でそれを防ごうとしたが、間に合わず、もろに攻撃を受けてしまった。
 立ち上がろうにも力が入らない。
(こん………なところで………終わる、わけには………)
 後はもう、一方的な戦いだった。為す術もなく、クレスはまるで人形のようにガルフビ−ストの攻撃を喰らい続け………。
「あーっと! クレス、ここでついに力尽きた−!!」
 クレスは、自分の意識が闇に飲まれるのが分かった。

後書き

 ユークリッドの闘技場でのお話、1度書いてみたくて今回やってみました。私はTOPは初心者なんで、全然まともなお話ではなかったかもしれません。後半は………楽しみにしていて下さい(ニヤリ)それから補足。ユニコ−ンのイヤリングをミントが見せてもクレスが驚かないことから、ア−リィの一夜は終わっています。でも、そうだったらガルフビ−ストに負けたりしn………(以下略)

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