第3話 師弟対決! 真菜VS山吹光一郎(1)

 山吹光一郎先生。
 私にとっての、おじいちゃん以外の弓道の師匠。
 山吹先生が弓の扱いを教える時の口癖は決まって、『弓道は人を傷つけうる武道。だから弓の扱いには細心の注意を払いなさい』だ。何でも、ふざけて弓を放った生徒が誤って他の生徒の頭部を射抜いて即死させてしまった、という事件が昔あったらしい。
「今日の朝礼で春宮、表彰されていたな」
「うん、これも山吹先生のお陰ね」
 山吹先生には本当に感謝している。厳しいけど、私は山吹先生が好きだった。
「ねぇ………そういえば最近、妙な噂を聞かなかったか?」
 朱河君の問いに私は首を振った。
「そうか、宝來は?」
「さぁ………妙かどうかは知らないけど、また転校生が来るらしいことは聞いたわ」
 由美は『また』の部分を強調して言った。
 確かに、この時期に2人も転校生が来るのはおかしい。
「確か、名前は星蓮香奈(せいれんかな)だったはずよ」
「星蓮………………?」
 朱河君はその名を聞いて黙った。もしかしたらその人物を知っているのかもしれない。
「朱河君、知っているの?」
「いや、そいつかどうかは知らないが。星蓮、っていえばある道ではかなり有名な金持ちだからな」
「ふーん………」
 『ある道』っていうのが気になったけど、朱河君はこれ以上聞いて欲しくないような顔をしていたので、私は何となく聞きそびれてしまった。


 それから1週間後のことだった。
 突然の部活停止───それは他ならぬ山吹先生が体調を崩したから。
 参与が代わりに部活を見てくれればいいじゃない、と私は思ったけれど、どうやら他にも何かあるらしい。ただ、その『何か』というのは由美の情報網を駆使しても探り出せなかったけれど。
「今までこんなことなかったわよ?」
「そうね、前代未聞だわ」
 私達は例によって帰り道にそんな話をしていた。
「私は家に弓道場があるからいいとして、他の部員はきっと不愉快な思いをしていると思うわよ」
「一体何があったんだろうな」
 その日はこのこと以外にたいしたことはなかった。


 そしてさらに1週間が経ち───。
 相変わらず部活は停止のままだった。というか、部員の殆どが休みでどこの部活も部活ができない状態だった。
「学校中で生徒が休みだなんておかし過ぎじゃない?」
「風邪が流行っているわけじゃないしな」
 昼休みに屋上で弁当を食べながら私と朱河君は口々に言った。最近では増々3人でいることが多く、クラスでは非難轟々といった感じなんだけど、当の朱河君は別に気にするな、と言って取り合ってくれない。
「それがさぁ、私、嫌な噂聞いちゃったんだけど………」
 由美の話によると、生徒が休みの原因は山吹先生にあるというの。
「何でまたそんなことを………」
「私も後でもうちょっと探ってみるわ」
「じゃあ、俺は春宮の家にでも行くか」
 ここ最近、朱河君は私の家にもよく来る。とは言ってもこれっぽっちも遊ぶためじゃなくて、おじいちゃんに色々と退魔術の指導を受けているんだけど。もちろん、私も一緒に、ね。
「じゃあ、何か分かったら教えるから」
「うん」
 チャイムが鳴ったのを確認しながら私達は教室に戻った。


「真菜! まだまだ甘いわッ!」」
「うぅ、おじいちゃんのバカ〜」
 私は緋袴に履き替え、朱河君も戦闘服に着替えて、いざ稽古! はよかったんだけど………。
 おじいちゃんの一声でたちまち私の破魔水龍矢は普通の矢となり、さらに素手で掴まれてしまった。
 要するに、おじいちゃんは相当レベルの高い、退魔術士、というわけ。それも怪物級の。
「ほら、2人とももっとかかって来い!」
「じゃあ、お言葉に甘えて。朱幻勾鶴(しゅげんこうかく)!」
 朱幻勾鶴───朱河君がもっとも得意とする炎の符術の中でも比較的一点集中型の技。命中する瞬間に鶴の舞のような炎を散らすため、この名がつけられている。
 けれどもこれでさえも、おじいちゃんには届かなかった。
「まだまだっ!」
「水流波!!」
 小型の波を起こす巫術で私はおじいちゃんを攻撃する。朱河君の狙いが分かっていたから。
「雷招来!!」
 朱河君の剣が雷を纏っておじいちゃんを襲った。
「………まぁこれぐらいならよいじゃろう」
(やっぱり………)
 いくら朱河君と私が本気で戦っても『暖簾に腕押し』、『柳に風』。全く効果はなかった。
「春宮のおじいさんは強いな………。全然勝てない」
「まぁね」
 服についた汚れを落とし、辺りを見回した時。
「………!」
 私は、殺気を感じた。
 慌てて弓を取った時には既に遅かった。棒手裏剣が確実に私の心臓を狙って投げ込まれていた。
「ったく! 余所見すんなよな」
 気がつくと朱河君に庇われていた。1メートルもないところに3本の手裏剣が刺さっている。私はハッと息を飲んだ。
(もし、朱河君が私を庇ってくれなかったら………?)
 確実に殺されていただろう。その事実に驚愕せずにはいられなかった。
「あ、ありがと」
「無事で、何よりだ………」
 その言葉には何となく重みがあった。仲間としての心配以上に。
「………………あの」
 何となく言いにくかった。
 でも、言わなければいけなかった、女の子として。
「そろそろ、立たせてもらえない?///」
「………………あ///」
 いくら不可抗力とはいえ、朱河君は………その、私を押し倒して、いた。
(こんなところ、おじいちゃんに見られたら………///)
 私は命を狙われたという事実よりも先に羞恥で頭が一杯だった───。

後書き

後書き/サブタイトル『新たなる戦い、幕開』
 えっと、この回は次回への導入部分でした。(意外に話が長くなってしまったので区切ってみたのです)このタイトルからすれば真菜が師匠である山吹先生と戦うのは決定です。果たしてどんな形でそれが実現するのかは次回を見てからのお楽しみに。誰が真菜を狙ったかも何となく分かってくるはず。ちなみに最後のネタはFairyはよく使います(爆)あ〜いう、たまたまなっちゃったみたいなの、結構好きだったり………(以下略)しかも、緋袴だし(鼻血ぐはっ!)

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