トルネと同じぐらい長い付き合いのネコが俺にはいた。
奴の名は「カンペー」。メラルー柄のオトモだ。
性格はトルネと真逆で小心者、加えて手癖が非常に悪い。
流石はメラルーと言ったところか。
それを逆に利用して素材集めの為のオトモとして育てているのだが…全く。
「あんまり働かないようなら解雇だぞ?」
「ニャニャー! そんな事は無いニャ! 今日はちゃんとゲネポスの皮とゲネポスの皮とゲネポスの皮を頂いたニャ!! 3つもゲットしたニャ!」
凄いだろう、と言わんばかりに胸を大きく張る。
俺はついに我慢しきれなくなって大剣の柄でカンペーを殴った───。
「じゃあ、今日は留守番な。ちゃんとトレーニングしてろよ?」
「はいニャ!」
俺はトルネを引き連れて集会所に向かった。
「待っていたわぁ、アラストル」
「丁度、ドンドルマの街が古龍に狙われていると通達が入ったところです」
「アリアス、シエル、ヨシは一足先にドンドルマに向かっています」
リン、メイ、ラン、シャーリー───四者四様の反応を見せる。
「どいつだ?」
「鋼龍クシャルダオラです!」
いつものストラテジーGではなく、アールブリードを背負う。
対古龍用に鍛え上げた、蒼火竜と桜火竜の大剣だ。
「ご主人様、ボクはあんまり力になれニャいかもニャ…」
「上の高台から牽制目的で小タルを投げろ。それで十分だ。後は俺達で何とかする」
流石にドンドルマにいるハンターと俺達が力を合わせても撃退が精一杯だろう。
それだけ、G級の古龍は手強かった。
「アラストル! 遅いわ!!」
「何やってんのよ、もう!!」
女ハンターの2人を無視して俺はヨシと話を進める。
「街のハンターだけじゃやっぱり力不足は否めないね」
後ろでアリアスがまだ喚いていたが、俺は全く取り合おうとしなかった。
「作戦は…いつもの?」
「そうだな。俺とヨシで頭を狙う。シエルは閃光玉を使いつつ、側面を狙ってくれ。それと、アリアス!」
機嫌の悪そうな顔をしながら彼女は俺に向き直った。
「回復を中心にシエルとは反対側の側面に攻撃を加えろ。尻尾に気を付けろよ?」
「分かったわ」
リオハートZシリーズに身を包み、広域+2のスキルを追加した彼女はパーティの生命線を担っている。
(ふん…このメンバーが揃っているのを不運だと思うんだな)
俺は次第に悪化していく天候を見ながらそう思った───。
「ていっ!」
「引け! 来るぞ!」
直後、俺とヨシは真横に跳んだ。そのすぐ側を風のブレスが突き抜ける。
「みんな、目を瞑って!!」
シエルが閃光玉を投げる。直後、クシャルダオラが地上に落下してきた。
視界を奪われ、暴れる鋼龍。
「くっ!」
闇雲とは言え、その尻尾の一撃は侮れない。
俺は大剣でガードをし、ヨシは迅竜の防具の力によってこれを回避した。
「風圧が!」
(まずい、龍風圧が戻ったか!)
龍風圧とは古龍種特有の風圧の事で、これはスキルでしか防げない。
当然ガードも出来ないので、食らうと硬直どころか尻餅を付く事請け合いだ。
「アラストルッ!!!」
アリアスが叫んだ。
不覚にも龍風圧を食らったのを心配しているようだった。
だが、策はある。
もしもの時の為にある場所へとクシャルダオラを誘導していた。
「やれ! トルネッ!!」
「ご主人様ッ!!!」
フッ…俺に当たるのを気遣うなんてな。
「いいから、やれ! 早くッ!!」
トルネには予め指示しておいた。
ピンチの時は小タル爆弾で援護をしろ、と。
ギャオオォォォ!!
タイミングが良かったのか、突進を食らうはずだった俺はトルネの小タル爆弾のお陰で最小限のダメージで済んだ。
あのスピードの乗った突進を貰うより、小タル爆弾で少し煤焦げた方がマシと言うものだ。
「サンキュ!」
差し詰め、念の為と言ったところだろうか。
アリアスは隙を見計らって回復薬を飲み干した。
広域のスキルによって俺達も同時に回復される。
「ご主人様! ボクも戦うニャ!!」
どこからともなく大タル爆弾を取り出し、クシャルダオラへと突撃するトルネ。
古龍であろうと何であろうと物怖じせずに向かっていくコイツはある意味最強かもしれないな。
「今だ、ヨシ!」
「分かってる!!」
鋼龍の弱点は頭の角だ。
ヨシは練った気を乗せ、何度も攻撃を加える。
俺も負けじと怯んでいるクシャルに最大まで溜めた一撃をお見舞いした。
バキンッ!!
何かが折れる音がした。
一瞬、ヨシの太刀が折れたのかと思ったが、そうではなかった。
「角が…折れたわ!」
シエルが盾でガードをしながら叫んだ。
暴れるクシャルダオラは翼をばたつかせ、何とか上空に上がろうとする。
「閃光玉!」
アリアスの声にシエルは首を横に振った。
(ふむ…ここいらが潮時か)
悔しがるアリアスを尻目に飛び去っていくクシャルダオラを俺は見遣った───。
「やれやれ…」
俺は空を仰いだ。
(撃退が精一杯とは…俺もまだ鍛える余地があるな…)
だが、得るものもあった。
G級に分類される鋼龍の素材をいくつか手に入れる事が出来たからだ。
「ふむ…エクディシスを強化するか」
普段は大剣を好む俺だが、火竜と鋼龍の混合による太刀だけは愛用していた。
これは俺が大剣を扱うよりも前、師とも言うべきハンターだった人物と共に作り上げた太刀───ラスティクレイモアに強化を重ねたものだった。
俺はクシャルダオラの鱗を太陽にかざした。
それは日の光を反射し、鈍い銀色に輝いていた───。
「お帰りなさいニャ!」
「ご主人様、後で今回の狩りの話を聞かせて下さいニャ!」
キッチンにいたアイルー達が俺を出迎えてくれた。
…と、何やら1匹いないようだが。
「カンペーはどうした? 彼奴にはトレーニングを指示していたはずだが…」
「それが…」
アイルーはオロオロするばかり。
俺は怪しいと思い、
「言わなければ全員お仕置きだぞ」
と、付け加えた。
「ニャニャー! 言いますニャ! カンペーは…ココット村産のキューカンバーをまた盗んで───」
俺は最後まで聞いていなかった。
(あの野郎! 捕まえて折檻だ!!)
俺は直ぐさま家の外へと飛び出した。
「ご主人様、待って下さいニャー!!」
それを後からトルネが追いかけてくる。
俺は家の裏側でひなたぼっこしているカンペーを見つけるや否や、詰め寄って背中を捕まえた。
「ご、ご、ご主人様! 今日もいい天気ニャね…!」
「ああ、そうだな。ところで、指示したトレーニングはやったのか?」
「は、はいニャ!」
「そうか…」
俺はそこで一呼吸置いた。
隣でトルネが震えながら両目を押さえている。
どうやらコイツは俺の言いたい事が分かっているらしい。
「俺が指示したのはキューカンバーを盗むトレーニングではないはずなんだがな…」
言いながら、俺はカンペーの両手を片手で掴んだ。
トルネは恐いもの見たさという感じで手の隙間からその光景を恐る恐る見ている。
「ニャニャニャー!? 許して下さいニャァ!!」
「馬鹿者ッ! お仕置きだ!!」
俺はカンペーの両手を持ったままグルグルとブン回した。
まるでハンマーの溜め攻撃の如く───。
「ニャニャー! 目が回るニャァー!!」
カンペーの悲鳴に近い鳴き声が当たりに響き渡った。
俺が雇っているアイルー達が皆縮み上がったのは言うまでもない。