外伝 破壊神と名無しのアイルー

 今でこそアイルーを連れての狩りが浸透してきているが、この頃はまだギルドがオトモアイルーの制度を解禁したばかりだった。
 そんな中、俺はG級ダイミョウザザミの依頼を受け、ミナガルデ付近にあるセクメーア砂漠に来ていた。
「ザザミと言えばオアシス付近か砂漠の南端辺りによく出没するが…」
 クーラードリンクの数には限りがある為、それを必要としない北側の状況を観察しに行った。
(ゲネポスの群れがここにいるという事はやはり南側の可能性が高いか…)
 俺はそう考えながら無造作に大剣を振るう。数体の碧牙竜が吹き飛んだ。
「ふん、生意気な…」
 俺の一撃を掻い潜った1体が跳ね上がり、その発達した足で頭上を狙ってくる。それを俺は返す刀で薙いだ。
(やはり南側か…)
 水竜ガノトトスが縄張りとしてる湖付近にも盾蟹は現れる事がある。しかし、そこでも遭遇しなかった事から推測すると、やはり砂漠南端の日差しがきついエリアにいるらしい。
「む…?」
 見るとそこには1匹のアイルーがヤオザミにいじめられていた。どうやら群れからはぐれたらしい。
 自然の掟───弱者は淘汰される───というのは当たり前だ。そして、それは俺達ハンターとて同じ事。
 だが、俺はその掟に逆らい、剣を振るった。
「ニャァ…」
 砂まみれになっていたので気付かなかったが、どうやら毛並みは黒らしい。
 縮み上がっているアイルーをひょいとつまみ上げ、砂を払ってやると再びそいつは弱々しく鳴いた。
「どこか怪我をしているようだな…」
 ポーチに詰め込んでおいた回復薬を取り出し、その黒ネコの口許にあてがう。するとそいつは始め、警戒してしきりに匂いを嗅いでいたが、安全だと分かると飲み始めた───ゆっくり、ゆっくりと。
(ふむ。まだ日が暮れるまでには時間があるな。アイルーの集落まではそう遠くはないし、連れて行ってやるか)
 アイルーの集落へと俺は歩き出した。…無論、その黒いアイルーの背を捕まえたまま、だ。




「着いたぞ。…じゃあな」
「ニャニャニャ?! …ニャア」
 しきりに騒ぐアイルーに背を向け、俺は来た道を引き返した。
(お礼でも言いたかったのか…?)
 だが、俺にはそれを知る術は無かった。人語を操るアイルーも街や村にはいたが、それらは人間と関わっているからに過ぎない。
 俺は気を取り直してダイミョウザザミとの戦闘に集中する事にした。
(この辺りか…)
 クーラードリンクを飲み、日の照るエリアへと足を踏み出す。
 先程のアイルーを助けた時もそうだが、この辺りはヤオザミの数が多い。…とすれば、その親玉であるダイミョウザザミがいる可能性も必然と高くなってくる。
 地響きがした。それはディアブロスなどの角竜種と、もう1種───今まさに俺が狙っているダイミョウザザミが地中を移動してくる際に起こる音だった。


「…来るっ!」
 既に俺の存在に気付いていたのか、一直線に向かってくる。俺はそれを回避で対処した。
「………何っ!??」
 おかしい。新しくギルドの受付嬢になったシャーリーはそんな事は言っていなかった。


 その盾蟹は、双角竜の頭蓋骨を殻にしていたのである。色も本来は赤のはずが、紫がかっている。
(まさか…亜種だと? いや、盾蟹の亜種なんて今まで確認されていなかったはずだ)
 だが、亜種だとすれば逆にシャーリーの言っていた事には納得出来る。彼女は「変な攻撃をしてくるダイミョウザザミ」だと言っていたからな。
 鋏を大剣で受け止め、弾き返す。その直後に水ブレスが飛んで来て、慌てて俺は横に飛び退いた。鉄製の大剣を好んで使う為、これをガードするわけにはいかなかった。
「なかなかやるじゃねぇか…」
 後退した後、どこを狙うか考えている隙にザザミは地中へと潜る。俺は更に距離を取った。
(これだけ距離を空けていれば狙われないはず)
 しかし、俺はG級を甘く見過ぎていたのかもしれない。いや、亜種だからなのかもしれないが。
 そいつは俺の足元をすかさず狙ってきた。
「…くっ! 馬鹿な!! この俺が直撃だと!??」
 ろくに受け身も取れないまま砂上に転がる俺の身体。やばい、体勢を整え直さなければ…。
 しかし、俺の意識は逆に闇に沈んでいく………はずだった。こいつが来るまでは。


「ニャァ!」
 にゃんにゃん棒で俺の顔をぺしぺし叩くアイルー───こいつ、さっきの黒いアイルーか!?
「ふん、借りは返すというのか?」
「ニャ〜!」
 いいだろう。丁度ネコの手も借りたいと思っていたところだ。
 俺は愛剣を構え直した。盾蟹が驚異的なジャンプ力を見せ付けたが、ギリギリまで引き付けて回避する。
「これは…鬼神笛なのか!?」
 力が溢れてくるのが分かる。この効果は間違いなく笛の恩恵だった。見ると少し遠くで例のアイルーが笛を手にしていた。
(フッ…コンビでの狩りも悪くはないな)
 そう、俺が思い始めている事をあいつが聞いたら笑うかもしれないな。「アラストルでもそんな人並みの事を考えるようになったのね」などと言うに違いない。
 更にやつは盾蟹が殻に籠った際に小タル爆弾を投げた。アイルー族秘伝の爆弾は水際だろうと気にしない。
「ニャッ!」
「やれ…というのか。折角だ。決めさせてもらう」
 ダイミョウザザミが怯んだ隙に俺は全身全霊を込めて集中し、渾身の一撃を放った。その一撃はザザミを瀕死に追い込むだけの力があった。
「ちっ…逃がしたか」
 先程、ペイントボールを投げておいたので問題は無い。あと、少しだ。
 回復薬と砥石を使い、俺はダイミョウザザミが眠る巣へと向かった。




 その紫がかった盾蟹はというと、その後黒いアイルーと共に無事に仕留める事が出来た。
(これはギルドに連絡するべきだな。そのうちギルドナイトのあいつが動くに違いない)
 この世界で俺がシエルの他に一目置いている凄腕のハンターであり、東方の剣『太刀』を好むあいつがきっと派遣されるだろう。
 と、ここで何とも気の抜ける音がした。
「…ニャァ…」
 見るとアイルーが何かをしきりに探している。どうやら今の音はこいつの腹の音だったらしい。
「ふ…締まらないやつだな」
 俺はそいつの傍に寄り、携帯食料を差し出した。
「ニャ? ニャァ…」
 何度もぺこぺこお辞儀をするアイルーを見て、ますますこいつが気に入った。
 …が、そう狩りに付き合わせるわけにも行かない。見たところ、こいつはまだ幼い。ギルドの規定には本来、オトモアイルーの資格として人間の言葉を話す大人のアイルーでなければならない。
 今回のは、恐らく特例扱いだろうが。

「今度こそ、お別れだな」
 俺はそのアイルーの頭を軽く撫で、その場所を後にしようとした。
「ニャニャ〜!!」
 …が、後ろからやつが付いてくるではないか。
「お前…付いて来る気か?」
「ニャ!」
「名は何と言う?」
 そのアイルーは首を横に振った。
「ふむ。では…『トルネ』と呼ぶか。『竜巻』の意だ」
「ト…ルネ…ニャ??」
「そうだ。そのうち人間の言葉も覚えさせるし、やる事は一杯あるぞ。…俺に、付いて来る気ならばな」
 俺は、ニヤリと笑った。すぐに狩りに出掛けるのは難しくてもキッチンアイルーとして雇いながら言葉を覚えさせればいい。
(これは…久々に楽しくなりそうだな)
 フッと笑みを零しながら、ベースキャンプへと戻る。その足取りは実に、軽やかだった───。

後書き

 アラストルは動かしやすくてラクだ、と思いながら書いた短編第2弾です(ぉぃ) Alastorよりもクールでカッコいいですけどね(マテ)

  因みに、モンハンチームの他の3人がちらっと話の中に出てきます。「コンビでの狩りも悪くはないな」のところの後のアラストルが思っているのはアリアス(ヴァルキリー)の事だし、シエルは名前が出てきています。そして、東方の剣『太刀』を使いこなすギルドナイト…ついに、モンハンチーム最強の人が小説に登場!(笑) この設定はずっと温めていたものなので、今後もっと広げていけたらと思っています。

 最後にトルネですが、名コンビ誕生ですねwww Alastorの愛猫のトルネは本来グレープですが、ここはSRWOGs的に『トロンベ』に敬意を表して黒としました(笑) 気付いて下さった方、いたら嬉しいですね♪

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