外伝 伝説の双火竜

 これは決して語られる事の無かった、そしてこれからも語られる事の無いであろう、あるパーティの物語───。




「依頼が入ったわ!!」
 急にドアを開け、俺達がいる部屋にシエルが駆け込んで来た。
 明らかに憔悴している。
「何だ、騒々しい」
 俺は訝しんだ。彼女らしくなかったからだ。
「どうしたんだい、シエル?」
 俺達のパーティのリーダーであるアランが尋ねた。
「それが…その、金銀火竜の依頼が私達にも…」
「!!」
 俺は顔色を変えた。
(金銀…火竜だと!?)
 原種とも亜種とも異なる銀(しろがね)の雄火竜、そしてその対となる黄金(こがね)の雌火竜の事だ。
 ここドンドルマからはかなり離れた、古めかしい塔に棲んでいると言われ、その強さは並のリオレウスやリオレイアとは比べ物にならないとされている。
 更に、王立学院書士隊が調べた記録によれば、気の遠くなるような長い年月を経て生み出された突然変異種(ミュータント)だという。
 故に個体数は少なく、挑戦する者は後を絶たない。
 最近では、質の悪い事に遠方にまで出没してはヒトや家畜を襲うという話まで出てきている。
「ジーク、怖じ気付いたの?」
「まさか」
 ルーナが横から割って入った。
 彼女はアランの妻であり、良きパートナーでもあった。
 そして、身寄りの無かった俺にとって、アランとルーナは親同然の存在だった。
「そんな事は無いさ。この前、クシャルダオラでさえも撃退したんだぜ? 俺達なら大丈夫だ」
「ハハッ、それは頼もしいな」
 アランは俺を見ながら笑った。
 いつか、俺もこんな風に頼りになるハンターになりたい。
(そして、俺のせいで死なせてしまった…あいつの為にも)
 俺はそう誓いながら、ラスティクレイモアを背負うのだった───。




 目的の古塔に辿り着くまで1ヵ月近く掛かった。
 陸路だけでなく海路で海峡を越え、隣の大陸まで渡った為である。
 俺とアラン達はドンドルマではそれなりに名の知れ渡ったパーティだった。
 その為、時々厄介な依頼が舞い込んで来る。
 今回もそんな類いのクエストだと思っていた。


「ふん、ギアノスか…」
 集団で襲ってくる青白色の小型竜をそれぞれの得物で蹴散らす。
 俺は太刀を、攻撃特化のアランは双剣を、回復重視のルーナは片手剣を、そして特殊攻撃を好むシエルはランスをそれぞれ愛用した。
「ちっ、流石に数が多いな…」
「あら…ジークが弱音なんて珍しいわね」
「うるせぇ、黙ってろ!」
 声と共に襲いかかってきたギアノスを返り討ちにする。
 はいはい、とシエルは楽しんでいるかのように同じくギアノスを突き倒している。
 小回りの利きにくいランスではあるが、それを物ともしない。
「アラン! 下がって!!」
 乱舞こそ使ってはいないが、双剣の鬼人化は体力を著しく消費する。
 その一瞬の隙を埋めるべく、ルーナが前に躍り出る。
(俺も負けてられないな…)
 クシャルダオラと戦って手に入れた素材を惜しみなく使い、作り上げたラスティクレイモアで一気にギアノスの群れを薙ぎ払う。
「これで…終わりだ!」
 気合いと共に放つ一撃がギアノスを直撃した。
 最後の1体を仕留め、小型竜の体液に塗れた刀身を一振りする。
 しかし、これはほんの序の口に過ぎないだろう。
 それを誰もが肌で感じていた。




 螺旋状の道を上がって行くと、ガブラスの大群が俺達目掛けて襲ってきた。
 やつらは小型ながら飛竜種に属しているので侮れない。
 加えて、毒も持っている為に非常に厄介である。
「くっ…」
 俺は抜刀した太刀をそのまま大上段に構え、一気に振り下ろした。
(ここは俺が…やるしかない!)
 得物が短いアランとルーナは圧倒的に不利だ。
 加えて、ランスを扱うシエルも手こずっている。
 ギアノス相手なら地上戦なだけましだっただろう。
 だが空中を自在に飛び回るモンスターが相手となると、立体的な攻撃に対応しなくてはならない為に攻勢に出辛くなってしまう。
「ジークだけにやらせるな! 滑空してきたところを狙え!!」
 それでも他の3人は凄かった。
 武器の性能で劣る分を卓越した技術で補う…まさしく一流のハンターの成せる業だった。


「…いよいよね」
「ああ、ここからが本番だぞ」
「また1人で突っ走らないでね、ジーク」
「う、うるせーな」
 四者四様の反応を見せる。
 誰もが自分の腕に自信を持っているからこその、適度な緊張が走る。
(大丈夫だ…俺達なら───)

 狩れる!

 俺には確信に近い感覚があった。
 決して過信ではなく、パーティに対する絶対の信頼がそこにはあった。
「これが…金銀火竜!」
「見蕩れている場合じゃないぞ! 私とジークはレウス、ルーナとシエルはレイアだ。いいな?」
「分かった!」
「了解!」
 その指示と共に予め打ち合わせしていた通り、閃光玉が投げられる。


「くっ…今の一撃。普通のレウスなら怯むはずだろ!?」
「やつらを原種や亜種と同じレベルで考えるな。希少種はそれだけ硬い」
 いや、硬いだけじゃない。
 おそらくは、肉質や弱点属性も…。
 だが、確かめるには限られた時間内で的確に狙わなければならない。
 閃光玉には限りがあるからだ。

 ギャアアアッ!

「怒り咆哮か!?」
「いや、違うようだ…」
 閃光玉の効果時間に気を付けながら俺はシエル達の方を見た。
「ジークーッ!! 翼を狙うのよ!!」
(翼…だと!??)
 シエルは確かに翼膜を狙っているように見える。
 比較的得物の長い俺かシエルが適任だが…。
「了…解!」
 遠過ぎて詳細まで聞く事は叶わなかったが、シエルの事だ。何か掴んだに違いない。
「チッ…飛び上がられたか」
「まずい。ルーナとシエルに知らせなければ!」
 それはレウスが空中を回遊する時に見られる最大の攻撃の前兆だった。
「ルーナ! シエル!! 伏せろっ!!」
「えっ?」
「来るっ!」
 雄の火竜は完全にシエルの死角から急襲してきた。
 それをルーナが盾で受け止める。
 ズザザザッーという音と共に後ろによろけるルーナ。
「ルーナッ!」
 この時俺はルーナが心配のあまり、陣形を崩してしまった。
 その隙を、この1対の火竜は見逃さなかった。
「ジーク、危ない!!」
 殆ど転がるようにアランが俺の身体を突き飛ばす。
 直後、リオレイアの3連ブレスとリオレウスの突進が掠める。
「アラン!」
 シエルの悲鳴にも似た叫びが聞こえた。
「1度、撤退を!」
「…くっ、俺の、せいだ」
「ジーク、早く!!」
 俺が持ち場を離れなければ、このような事にはならなかったのかもしれない。
 だが、既に時遅し。
 俺の代わりに攻撃を食らったアランは致命的とも言える傷を負ってしまった───。




「アラン、しっかりして!」
 キャンプに戻ったルーナが止血をする傍ら、シエルはアランに呼び掛けた。
「いいか…私は、もう長くはない。私達はお前を実の息子のように、扱って…きたつもりだ…」
「そんな事聞きたくなんか…今までだって、少し怪我をしてもまた狩りに行ってたじゃんか!」
「私とルーナの間には…お前達ぐらいの娘がいてな、2人と同じようにハンターを目指し…ている。出来る事なら…お前達に面倒を、見てやって欲しい…」


 今回の狩りは失敗した。
 それだけでなく、俺は大事な人を2人も失ってしまった。
 そう、ルーナもまた、この後程無くして病で亡くなったのだった。




「何が『ココット村の勇者』だ! 思い上がって…俺はまた『家族』を失うなど…」

 それ以降、俺は今まで使用してきた太刀から大剣使いへと転向する事となる。
 一撃の威力を高める為、そして独りきりでも戦い抜けるように…。
 そして、受けられるクエストは片っ端から受けた。
 俺は自暴自棄になっていたのかもしれない。
「ジーク、そんなに戦ってばかりいたら…倒れるわよ」
「黙ってろ、シエル」
「みんな、あなたの事を『破壊神』だと呼んでいるわ。人の顔した修羅だと…」
「そうか…」
 俺にはある決意があった。
「ならば、俺は今日から『破壊神(アラストル)』と名乗ろう。そして、俺はドンドルマから離れる」
 皮肉な事だ。
 アラストルとは『復讐の神』の意。
 それは、あいつと2人の敵を討つという意味。


 俺はこの事実を語る気は無い。
 そして、俺が他のハンターと組む事も、だ。

 かくして、『ジーク』は『アラストル』となった───。

後書き

 アラストルの本名とか、物語の核心部分とか、かなりネタバレな部分を書いてしまいました…orz(本当は最後の部分をカットしようかかなり迷った) だから、アラストルとシエルは知り合いなのです。そうすると、他人とパーティを組まない彼が…っとと。本編を読むと、謎がはっきりするはずです(笑)

プロット※要反転

 「破壊神(アラストル)」と呼ばれる前の、そして呼ばれる切っ掛けとなった狩りの話。

 塔に棲まう伝説の双火竜討伐をドンドルマで依頼される。

 ギアノス・ガブラスを蹴散らすシーン。

 金銀火竜との戦いでアランが負傷する。

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