第2話 栄光への道(1)

 アリアスは謎のハンターによって間一髪のところを助けられたのだが、これはその後の話───。


「急げ。アイルー共に救難の要請が出ているらしい」
 彼はアリアスを促した。




「アリアス!」
 村の集会所に戻ってくると真っ先にシエルが叫んだ。
「心配したのよ…でも、無事で良かった」
「助けられたんです…あの人に。とても不本意だったけど」
 アリアスはぷいと横を向いた。どうやら先程『ひよっ子』と言われたのを余程根に持っているらしい。
「…アラストル」
「シエルか」
 彼───アラストルと呼ばれたハンターの声に驚いたのは他でもないアリアスだった。
「知り合い…なの!?」
「知り合いという程大それた関係ではないけれどね。彼はハンターの間では有名だから」
 シエルは説明した。彼女が含みのある口調で言った事にアリアスは気付いたが、彼女がそれについて質問するのは憚れた(はばかれた)。アラストルが口を挟んだからである。
「おい、ひよっ子」
「だから、違うって言ってるでしょ!」
 またもや『ひよっ子』と言われ、激怒するアリアス。よっぽどこの不名誉なあだ名が許せないのだろう。
「ほう、それだけの口が叩けるなら1人でクックぐらい狩れる実力はあるんだろうな?」
 明らかに挑発している。しかし、アリアスはすっかり頭に血が上っているのでそれに気付かない。
「あっ、当ったり前よっ!」
 シエルはアリアスのこの発言に口を挟もうとしたが、彼女は「黙ってて下さい!」と一喝した。
「それなら1週間後の日が昇る頃にここに来い。同伴はしてやるが、援護はしないからな。しっかり準備してこい」
 報酬を受け取った(とはいえ、ティガレックスを仕留めそびれたので大した事は無かったが)アラストルはそう言い残し、その場を去って行った───。




 1週間後───。
 アリアスは集会所に行って怪鳥イャンクックのクエストの手続きを済ませた。
「逃げなかったところを見ると根性だけはあるようだな…いや、馬鹿だと言った方が正しいか」
「うるさいわね!」
 アラストルの挑発にアリアスは負けじと言い返す。
「アリアス、落ち着いて。イャンクックはまだあなたの手には負えないわ。…アラストルもアラストルよ! 無茶させ過ぎ」
 そんなシエルにアラストルはそっと耳打ちをした。
「(俺がついているんだから死なせはしないさ。それに───)」

 あいつには双剣より向いている武器がある、そう彼は言った。

 そこにはアラストルなりの気遣いがあったのかもしれない。もっともアリアスは額面通りにしか取らなかったのだが。
(あのアラストルが…他人の面倒を見るなんてね)
 シエルは不思議に思った。アラストルは常に一匹狼で滅多にパーティを組む事は無いからだ。…が、彼女はそこまで考えて、止める事にした。
(どうせ、彼の事だ。アリアスを死なせるような真似だけはしないだろうけど…)
 彼の逸話には善かれ悪かれ様々なものがある。『破壊神』と呼ばれるに至った経緯も彼女は本当は知っていた。
 それをアリアスに告げなかったのは、本人であるアラストルがそれを嫌っているのもある。だが、それ以上に真実を言わなかったのはシエル自身もまた身分を伏せて活動するハンターの1人だったからに他ならない。
(まぁ、ハンターを生業とする人間に裏事情が付きまとうのは別に珍しい事じゃないわね)
 そう思いながら、アリアスとアラストルを見送った。




「おい、お前。クックについての知識はどれぐらい知ってる?」
「えっと…」
 アリアスは言葉に詰まらせた。当然である。イャンクック狩りに行った事が無いのだから。
「………」
 呆れた、とでも言いたいのだろうか。アラストルは顳かみ(こめかみ)を押さえている。
「そ、そうだわ…音に対して敏感なのよね!」
(まぁ、それだけ出てきただけでもマシか…)
 アラストルはふぅ、と溜め息を吐いた。
「音爆弾というアイテムがある。それをクックに投げ付けると暫くの間動きを封じられる。調合材料は…爆薬と鳴き袋だ。今回は入れておいたが…次からは自分で用意しろよ」
 何故、このハンターはアリアスの面倒を見るのだろうか…? 疑問に思ったアリアスはアラストルに尋ねた。
「ふん、ただの気まぐれだ。そのまま馬鹿やって死なれるとシエルや引退したアレックスに迷惑が掛かる」

 ───ただ、それだけだ…。

 最後の方は彼ららしからぬ声色だった。無論、アリアスがそれに気付くはずも無かったのだが。
「そもそも、どうしてお前は双剣を使うんだ? 初心者なら片手剣から入るのが普通だろう」
 アラストルの言い分は正しい。実際、多くのハンターは片手剣で学び、それから己の戦闘スタイルに合わせて他の武器を使うのである。ある者はランスに、またあるものはヘビィボウガンに…といった具合だ。
「…ココット村の勇者が使っていた剣が双剣だった、からかしら?」
 ココット村というのは西シュレイド地方の森丘狩猟区域の付近にある村である。そこでは昔、『ココット村の勇者』と呼ばれる程の腕前を持つハンターがいた。そのハンターは今ではココット村の村長をしていて、噂ではとあるハンターが2代目『ココット村の勇者』の名を受け継いだとか。
 それは、アリアスの住んでいた村でもよく耳にする噂だった。そして、彼女はその勇者に憧れ、彼が使っていたのと同じ種類の武器である双剣を選んだのである。
「確かに…伝承では双剣を使っていたとされるな」
 含みのある声でアラストルは言った。まるで、その裏には何か違うものが潜んでいると言わんばかりに…。
「ちょっと! 何よ、その言い方は!」
「いや、何。それだけの理由で双剣を選ぶなんて馬鹿だとしか思えないと思っただけだ」
「むぅ〜〜〜!」
 アリアスに反論の余地は無かった。何故なら、彼女本人にも何かが足りないと思っていたからである。
「それはそうと、何で今日は大剣なんか背負っているのよ?」
「何を言う。俺は本来大剣使いだ。まぁ、大体の武器は扱えるがな」
 アラストルは初めて合った時に装備していた太刀とは異なり、タクティクスという大剣を背負っていた。それはブレイズブレイドと呼ばれる金属剣を強化したものであり、また、その名には「戦術」という意味が込められている。
「さて、お手並み拝見、と行こうか…」
 アラストルはニヤリと不敵に笑った───。




 数時間後───。
 かの怪鳥にペイントボールを投げ、音爆弾で怯ませている間にデュアルトマホークと呼ばれる鉄製の双剣で乱舞を叩き込んだアリアス。…と、そこまでは良かった。しかし、激昂したイャンクックの嘴(くちばし)で突かれ、敢え無くベースキャンプ行きとなってしまった。


「いたたたた…」
 何よ、もうちょっと丁寧に扱ってくれてもいいじゃない! とアリアスは思った。それは、荷車で救援してくれたギルドお抱えのアイルー達に対する言葉だった。
 もっとも、危険極まり無い中での救援をしてくれたアイルーに対してそのような言葉を吐くのは暴言に等しいのだったが。
 そして、同時に狩りは1歩失敗に近付いた。何故なら同じクエスト内で3度アイルーに救援された者は、そのクエストが失敗になるとギルドのルールで定められているからである。
「無様な奴だな…」
 侮蔑の声はベッド代わりに使っている小さな船の方から聞こえてきた。まるで日光浴でもしているかのようにアラストルは寝転びながらそう言ったのである。
「うるさいわねっ…!」
 最後の方は声にならなかった。何故なら、アラストルの言葉は「お前、もうクックごときにやられちまったのか?」とも取れたので、彼女は悔しさで一杯だったのである。この言葉は精一杯の強がりだった。





 そして、更に時間が経った。いつしか日は暮れ、空には数多の星が煌めいていた。
「っ…!」
 声にならない苦痛を上げ、アリアスは再びベースキャンプ送りにされた。あと1回救援されれば、このクエストは失敗となってしまう。
「止めとけ。今のお前じゃ話にならない」
 声はやはり船の方から聞こえた。
「何も見てないくせによく言えるわね!」
 半ば怒声と化したアリアスの声。しかし、アラストルは2枚も3枚も上手だった。
「見なくたって分かるさ。お前の双剣の使い方は荒過ぎる。大方、鬼人化でもしまくって回避出来ないまま屠られたんだろう?」
「………」
 図星だった。
 アラストルがこれを言い当てたのはそれだけ多くのハンターを見てきたというのもあった。加えて、彼はアリアスの武器の刃こぼれの酷さを見て確信に近い判断を下したのである。
(双剣は極めれば強い…だが、誰もが最初に嵌まる罠がある)
 彼が思った罠というのはつまるところ、鬼人化の事だった。
 鬼人化とは双剣の奥義とも言える攻撃で、剣に自らの気を纏わせて攻撃力を大幅に底上げし、凄まじい斬撃を繰り出すというものである。しかし、これは非常に体力を消費する。故に、双剣使いはここぞという時の奥の手として使うのが常套手段だった。
 それを、アリアスはお構い無しに繰り出していたのである。また、この攻撃は少々の攻撃を食らっても怯む事は無い。そう、ほんの少しのダメージでも積もれば大きな痛手となっていたのだ。
「リタイアしろ」
 アラストルの声は冷たかった。しかし、それでアリアスも黙って引き下がれるはずも無く…。
「嫌よ、絶対狩ってみせる!」
 その声と共に再び、密林の奥へと走って行った。
 そして、見事にクエストは失敗してしまった。
「だから、言ったのにな…」
 アラストルは帰りの船の中でそっと呟いた───。

後書き

 お久し振りですwww 実に1年振りの小説でした。腕が鈍っていないかとか色々心配はありましたが(←そもそも、そんな大した文才など無い;;)、無事に完成して良かったと思います。自己満ですけど、それでもスランプを脱出出来たので、私としては十分でした。

 後半の辺りのアリアスとアラストルは公式小説「魂を継ぐ者」のキオとクルトアイズに似ています(爆) でも、パクりではありません! ValkyrieとAlastorは実際に昔、こうでした;; 居丈高に文句を言う(本当は教えている)Alastorに対して、Valkyrieはいつも「いつか必ず自分の方法で見返してやるんだから!」と考えていたのです(ぉぃ)

 懐かしい想い出と共に書き上げた小説を読んで下さった皆様、ありがとうございます! 引き続き、お楽しみ下さい。

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