炎の女神の夏祭り 2巻き込まれてゆく厄災の渦

「それにしても、凄かったわね。リリスもディールもまた一段と力をつけたみたいだし」
「そう? あたしに言わせればディアもマリィもカインも上達してると思うよ」
 廊下を4人で歩きながら(カインの話によればディールはまだ授業が終わってないみたい)、1、2限目の試合について話をしていた。
「あっ、そうだ。3人は何飲む? 買ってくるよ」
「オレはサイダーで」
「あたしはカフェオレ!」
「じゃあ私はストレートティーで。あ、でもリリス私も一緒に───」
「いや、俺が行くぜ」
 戻ってきたディールがそう言った。
「じゃあ、あたしがいつものランチ頼んでおくから」
「うん」
 あたしは3人と別れた。
「遅かったじゃん」
「まぁな、ちょっと先生に残された」
「ふーん、珍しい」
 残されたとはいってもディールのことだ、きっと成績が悪いとかそういった類のものではなさそうだけど。ただ、滅多にそんなことはなかったのも事実。
「そうだ、ディールに聞きたいことがあったんだけど」
 何だよ、とディール。
 あたしもちょっと恥ずかしくて聞くのには躊躇ったんだけど、やっぱり気になったから聞いてしまった。
「ねぇ、ジャスティと賭けしてたって本当?」
「だっ………誰から聞いたんだよ///」
 ディールはそっぽ向いた。あたしは意地悪そうな笑みを浮かべながら答えた。
「カインからよ」
 ディールは胸中で何か毒づいてるような感じだった。
「あのな、ここんとこちっとも出掛けてなかったし。冬休みも春休みも2人とも合宿とかあってどこも行けなかっただろ。ジャスティの動きを封じようと釘を刺したらこんなことになっちまったんだ」
 弁解するように、そっぽ向いたままディールは言った。
 あたしは別に怒ってはいなかった。ディールは何か勘違いしてるみたいだったけど。
「でも、ディールが勝ったから許してあげる。不敗神話、また尾ひれがつくわよ。きっと」
「それはお互い様だろ」
 実を言えばディールだけでなくあたしも入学時から殆ど負け知らずだった。(自分で言うのもあれだけど)今年に入ってからはディールと同様に連勝を重ねてて、ディアやマリィを始めとする級友曰く、2人が戦ったらどうなるのかしら? だそうだ。そんなのはもちろんやらなくたって分かる。勝つのはあたしだ。
「早かったね」
 ディアがあたしの分のランチを置きながら言った。
 普通、学校でランチ頼んだら食堂で食べなきゃいけなかったんだけど、今年から集会室も使えるようになったから、あたし達はそっちで食べている。
 丁度ラジオもあることだし。
 と、そのラジオのことなんだけど………。
 急に臨時ニュースが入った。
「ん?」
 ディールが海老フライを口にくわえながら聞き入った。
『今日、午前11時頃、サンルーザ王立博物館に泥棒が入りました。犯人は黄金の女神像を盗んで逃走。未だ捕まっておりません』
 あたしのフォークの落ちる音がした。
「何だって!?」
「あれがなくなるってことは、ブレイディアの怒りを買うことになるんだぞ………!」
 女神の怒り………。
 あたしの心の中に頭の片隅に置かれていたことが浮かぶ。
(まるで今日のフォーチュン・テリングみたいだ)
 でも、このできごとはこれから起こることの、単なる序の口でしかなかった───。

後書き

 全て懐かしいお話です。本編の方も同時にアップしましたが、個人的には短編の方が好きです。最近ではバツファリやドルステばかり書いていたせいか、3人称よりも1人称の方が書きやすくなってしまったようです( ̄ー ̄; ヒヤリ 物語の構成のお話をすると、いまやっと起承転結の『承』が終わったところですね。これから一気に『転』に持っていくつもりです。というわけで、もう少しお付き合い下さいませ。

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