ダイヤの月1日騒動記

 ダイヤの月1日───。
 この日は誰もがウソをついても構わないという日。もちろん、あたしがが通うサンルーザ冒険者養成スクールも例外じゃない。
 あたしのクラスでもそのことで朝から大騒ぎ。
「さて、今年も思いっきりウソをつくわよ〜!」
「ディア、程々にしないと駄目よ」
 なんて会話をあたしの隣でしているのはディアーナことディアーナ=ティル=フェリオスとマリアことマリア=リリセット。2人はあたしの親友で、あたしはディアとマリィって呼んでる。ちなみにディアはあたしと同じウィザードコース、マリィはクレリックコースを選択してるの。
「だぁ〜! お前らは何で朝からそんなにハイテンションなんだ? うるさくて眠れやしねぇ………」
 あたしの席の隣で呻いてるのはお馴染みのディール。口うるさいのは昔も今も変わらない。
「ディール、お前もダイヤの月バカには気をつけろよ。ただでさえ、上に2文字つくぐらいの正直者なんだからな」
 ディールの後ろ、つまりディアの隣に座っているのはカインことカイン=マドラージュ。ディールと同じファイターコースを選択してる、ディールの良き理解者。
「リリスさんおはようございます」
「ジャスティ、おはよう」
「朝からぬけぬけとツラ見せやがって」
 即座にディールが文句を言う。
 それもそのはず。ジャスティことジャスティ=ルークスはディールのライバルで、いつでもどこでも喧嘩ばかり。決闘沙汰になったことも1度や2度じゃないという、まさに犬猿の仲と呼ぶのに相応しいくらい。ちなみにレンジャーコースを選択してる。
「1限目の授業何だか聞きましたか?」
「ううん、聞いてないけど」
 ディールの文句は無視してジャスティはあたしに話しかけてきた。あたしの隣で相変わらず文句を言い続けてるディールとそれを抑えようとしてるカインが見えたけど、取り敢えずあたしは放っといた。
 ジャスティの話によれば1限目の授業は疑似体験───つまりバーチャルリアリティによるトレジャーハントらしい。だからあたし達は地下にある疑似体験室ヘと足を運んだ。
「皆さん、席について下さい。今日は知っての通り疑似体験トレジャーハントを行います。あなた達は広大な熱帯林の中で隠された財宝を探します。途中、モンスターや他プレイヤーに遭遇することがありますが戦闘OKです。習得した剣技や魔法、それからいつも使っている武器や防具も使用できます。ただし、魔法はくれぐれもスペル厳禁ですよ!」
 あたしのクラスの担任にして、共通授業の担当でもあり、ウィザードコースの担当でもある(あたしとの関係が大アリな)マルゴット先生がルールを説明した。
「入り口にはよろず屋があるのでそこで道具を揃えてもいいでしょう。所持金は1人当たり500G。パーティは2人まで。説明は以上ですが何か質問はありますか? ないのでしたらいつものように始めますよ」
 それからマルゴット先生は忘れてたのか、そうそう! と手をポンと叩いて付け加えた。
「今回は財宝を手に入れてきたパーティにご褒美があります。がんばって下さいね」
 歓声が上がるのを他所にあたしはスイッチを入れ、テーブルの上に置かれている画面を見つめた。


「遅かったな」
 ディールが入り口で待っていた。
「今日はチェックに時間がかかったから」
 チェックというのは現実世界から疑似世界へと意識を移項させる時にすべての能力をステータスとして置き換えることで、HP(ヒットポイント)が体力、MP(マジックポイント)が魔力っていう具合。1人前の冒険者になるともらえるライセンスにもこんな表記がしてあるんだって。
 今回のパーティはそれぞれあたしとディール、ディアとカイン、マリィとジャスティっていう組み合わせ。
「何か買ってく?」
「ああ、俺達は治癒魔法が使えないからポーションとかは必要だろ」
 あたし達は入り口のよろず屋でポーションを含む各種の薬類を買った。


 森の中に入ってから10分以上経った頃───。
「ここで会ったが100年目!」
「ちっ! メンドい奴に出くわした」
「リリス、負けないわよ!」
「こっちこそ!」
 かくしてバトルに突入。まず先手を切ったのはジャスティ。
「ウインドアロー!」
 ウインドアロー───疾風の刃を纏った弓を連続的につがえる弓技。弓矢はその特性から風の気を纏いやすい。
 対するディールは接近戦で一気にケリをつけるべく、矢の嵐をくぐり抜ける。
「ジャンプ斬り!」
 高く跳躍したディールが空中でムーンブレイドを振りかざす。ディールの得意技、ジャンプ斬りだ。
 一寸の狂いもなくジャスティに命中。疑似体験だから痛みこそ現実の何分の1かで済むけどさすがにこれはつらいはず。
 そう思っていた矢先だった。あたしがハッとしたのは!
「キュア!」
 攻撃を受けたはずのジャスティが元通りになってしまった。マリィを敵に回すというのはいつもながらやりにくい。
(それならここは───)
「サイレンス!」
 サイレンス───魔法を封じるための魔法で、これにかかった相手は一時的に魔法が唱えられなくなるというマジックユーザーを相手にする時に有効な魔法。
 それをあたしは唱えた。
「やった、成功! ディール、後は任せた!!」
「ラジャ〜!」
 マリィとジャスティの2人は脱落が決定。
 あたしとディールはライバルが減ったことに感謝した。


「気をつけて歩けよ。どんなモンスターが出るか分からないからな」
「うん………………………きゃっ!」
 あたしの足に何かが絡み付く。それがモンスターの触手だと気付くのにたいした時間はかからなかった。
「言ってる側から引っ掛かりやがって!」
 ディールが思いっきり毒づいた。
「………や………あっ………………うっ!」
 身体全体をを束縛され、身動きが一切取れない。しかも、だんだん………。
「クイックスクライド!」
 ディールの至近距離攻撃がモンスターの触手を切断。けれど、触手の多さにさすがのディールも手を焼いてる。しかも人間の生気を吸い取るらしく、あたしの体力はあっという間に限界まで近付いた。
 うねうねと怪しく蠢くモンスターの触手に少なからぬ吐き気と嫌悪感を抱きながらもどうすることもできない自分に苛立ちを覚える。
(………こうなったら!)
 あたしは覚悟を決めた。
「ファイア−!」
 自分の周囲ごと一気に炎で焼き尽くす。もちろん、自分が丸焦げになるのを覚悟の上で。
「ばっ………バカ野郎! 何やってんだよ!!」
 慌てたディールがポーションを取り出し、あたしの唇にあてがった。
「限界まで減った体力で魔法を唱えるだけで危ないっつーのに、加えて自分まで巻き添えにするなんて!」
 あたしの大胆過ぎる攻撃方法にディールはただただ圧倒されてた。


「あれはっ!」
 何かが奉られている。どうやら小さな神殿みたい。
 もっと近付いてみることにした。
 すると………。
「これが………宝なのか?」
 ディールが奉られていた宝玉を手に取ると、宝玉が七色に輝き出した。
「きれい………」
「………見とれてねーでさっさと──────!」
 背後に気配を感じたあたし達はすぐに構えた。
「ガーゴイルッ!?」
 両サイドにあった翼竜の形をした石像があたし達に攻撃を仕掛けてきた。
「これが最後の試練ってやつかな」
「呑気なこと言ってないでさっさと片付けるわよっ!」
「あいよ」
 どこまでも呑気なディールの言葉に苛立ちながらもあたしは水の精霊達を呼び、精霊魔法を発動する。
「ウォーター!」
 続いてディールの攻撃。
「ジャンプ斬り!!」
(ディールのバカ! 直接攻撃は効かな───)
 言うまでもなくディールの両手に衝撃が走る。相手は石でできてるんだからガチンコで直接ぶつかればこっちが負けるに決まってる。
「魔法も殆ど効かない、ディールの直接攻撃はダメ………どうする!?」
 突破口を開かなければこっちが負ける。
(突破口………? そうだ! あれを利用すれば!!)
 あたしは近くの地形を利用してガーゴイルを倒す方法を思いついた。
「いくよ! ファイア−!!」
 あたしのウィザード・ロッドから帯状の炎が迸り、2体のガーゴイルに命中。大した効果はなかったものの、ところどころ黒焦げになって湯気を立ち上らせてる。
 温度の上昇───これこそがあたしの狙いだった。
「やってやるぜっ!」
 ディールは横薙ぎに払い除け、近くにあった池にガーゴイルを落とす。緩慢になった動きがやがて音を立てて崩れていく。
 そう、冷えきったお皿に熱湯を注ぐと割れてしまう───あの原理をあたしは応用した。
「さて、帰るか」
「そうね」
 ガーゴイルを倒したことを確認しつつ、あたし達はその場を後にした。


「持ち帰ってきたのはディールとリリスね」
 マルゴット先生はあたし達を見て言った。
「今回の授業はこれでおしまいです。ご苦労様でした」
 そう言って部屋を出ていこうとしたマルゴット先生をディールが引き止めた。
「先生、何か忘れてないか?」
「何のことです?」
「賞品」
 ディールは一言で片付けた。それだけでも何が言いたいのか良く分かる。
「ああ、あれですね」
 先生は思い出したようにこう言った。
「あれはウソですよ。今日はダイヤの月1日ですから」
「ハメられたっ!」
「ディールは晴れてダイヤの月バカの仲間入りですね」
 ぬけぬけと言ったマルゴット先生。
 ディールはとってもくやしそうだったのでした。

後書き

 Legend of the wizard初の短編はいかがでしたか? 個人的には少々無理矢理な展開でしたし、あまあまでもないという、でも話自体は結構好きな方ですね。ただ締め切りを破ってしまったので(汗)4月1日に公開しなければ意味がないのに(大汗)スクール編はこれからもちょくちょく書くのでこちらも末永くお付き合いお願いします。

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