第11話 強襲! VSキマイラ

 エルモア大陸の敵とも大分戦い慣れてきた頃のことだった。
 あからさまな気配───それも相当レベルの高い魔物の───を感じ取った一行は素早く散開した。
「後ろからかっ!?」
 周囲に森林などの身を隠すことができるような場所はどこにもない。
(じゃあ、一体どこから現れたっていうの───?)
 遮蔽物が側にない、このような開けた(ひらけた)場所で6人全員が背後を取られることそのものがおかしかった。
「こ、こいつは………」
 ロックは思わず口籠る(くちごもる)。だが、たとえモンスターに詳しい彼でなくてもその外見だけでこの魔物が何であるかは一目瞭然だった。
「キ、キマイラ………ッ!?」
 キマイラ───合成魔獣の中でも最もポピュラーにして、最も恐れられているモンスターだ。野生のものは大変珍しく、大抵は召喚や闇黒魔術による合成で造り出されることが多い。
「我と共に生きるは探求の精霊ッ! ディテクト!!」
 リリスが高らかに魔法を詠唱する。
(こ、これは………も、しかし………て)
 リリスは魔力感知の魔法を通じて脳内に流れ込んでくる膨大な闇のエネルギーを感じ取る。
「これは、召喚魔法よっ! みん、な、気をつけて!!」
 自分の許容量を超える負の力に耐えきれずに、リリスは片膝をつく。
「リリス、大丈夫?」
「うん………」
 一方、前衛では。
「食らえ! ダブルクロス!!」
「ソニックアックスッ!」
 ディールとレッドの技がキマイラを狙うが、素早い動きで完全に躱されてしまう。
「水流絶槍!」
 レイの空中からの痛烈な槍術さえもものともせずに反撃を仕掛けてくる。
「うわぁっ!」
「ロック!」
 ロックがキマイラの鋼鉄さえも易々と切り裂くとさえいわれる爪の餌食となってしまう。
「大丈、夫………」
「我と共に生きるは癒しの妖精! キュア!!」
 これぐらいで回復できる体力はたかが知れている。だが、より高度な治癒魔法を唱えようとすればその分魔力が必要であることに加え、詠唱中に狙われるリスクも大きくなってしまう。
 ぎりぎり動けるぐらいの治癒の方が危険性も少ない。その都度回復しなければならないというデメリットも生じるのだが。
「トラインソード!」
「グレネードボム!」
 フェイの剣技にロックの爆発系の銃技が加わる。
 これはさすがにキマイラにもダメージを与えることができたのだが………。
「嘘っ!?」
「リ、リジェネレイトしやがった!?」
 リジェネレイト───主にゾンビなどのアンデッドモンスターや一部の強力なモンスターが持つ特性で、傷を受けた側から治癒をしていく、というものだ。
(リジェネレイト………確かヒュドラを倒す時は炎を使って───)
 リリスはキマイラと同じく有名な伝説級の大蛇───ヒュドラの例を基に冷静に考える。どうやら試す価値はありそうだ。
(ただ、あたしの力だけじゃ圧倒的に火力が足りない)
 そこでリリスは炎の精霊剣技が使えるディールとレッドに提案を出す。
「ディール、レッド、炎の技を同時に繰り出して! リジェネレイトは炎系の技で防げるはずだから!!」
『分かった!』
 ディールとレッドはお互いを見て確認。息を合わせて再び精霊剣技を放つ。
「ファイアードライブッ!」
「鳳凰乱舞!」
「我と共に生きるは炎の魔神!」
 その間にリリスは詠唱を完成させる。
「フレイムッ!」
 膨大な量の熱気がキマイラを襲う。初めてキマイラが悶え苦しみ、怒濤の怒りで突進を仕掛けてくる。
「除けるんだ!」
 ロックの声の下、全員が散開する。
「!?」
 キマイラはこれまで以上に素早い攻撃で、技を繰り出し終わった直後のディールを狙った。技を放ってから次の動作に移るまでに僅かな隙があったことを魔獣は、見逃さなかったのだ。
「ディール!!」
「フェイ、陣型を崩すなっ!」
 レッドの声がフェイの耳元に届いた時には既に遅かった。魔獣の凶悪な爪がフェイを襲う。
「ロックは2人を安全圏まで撤退させろ! リリスは援護だ!!」
「レイ………!」
 リリスは不安な目でレイを見る。前衛はレッドとレイのみ。2人だけで戦うのは無謀を通り過ぎて無駄死にの域である。
「大丈夫だ、リリス」
 レイは銀槍を携えて、再び戦渦の中へと戻る。
(キマイラを、魔獣を倒す力が………欲しい!)
 リリスは静かに杖を天に掲げる。その祈りに応えるかのように天から舞い落ちる1枚の、翡翠色の羽根。
 彼女の周りには膨大な魔力の渦が吹き荒れ、それが徐々に風の精霊の意思を反映させていく。
 その中心で、リリスは叫んだ。
 ───新しい、魔法を。
「汝、盟約に従い遥かなる彼の地より来れっ! コール、ウインドル!」
 ウインドル───風鳥族(ふうちょうぞく)の一種で、風を自在に操るといわれる、知能がとても高い聖獣だ。
(絶滅した、幻の聖獣………)
 ロックはレッド達の援護をしながら、驚いた。
 ウインドルは現代のクロムウェルには存在しないことを知っているからだ。
「ウィリー、行くよ!!」
「分かったウィ!」
 リリスは何故初めて出逢ったばかりの聖獣の名を知っているのか?
 それは、彼女にも分からなかった。
 ただ、彼女の根底にある記憶が、ウィリーのことを知っていた。
「我、盟約に従い、汝の真なる力を解放する!」
 今のリリスにはあまりに大き過ぎる力。
 己の力量を超える力を操るということは魔術師の中でも戒められていることだった。
(それでも、誰かを救えるのなら!)
「魔力解放!」
 ウインドルをリリスは巨大化させ、その背に飛び乗る。
「みんな、離れてっ!!」
 その声が辺りに響くと同時に荒れ狂う嵐のごとき風がキマイラを瞬殺、した───。


「大丈夫?」
「まぁ、ちょっと頭が痛いけど………」
 立ち直ったフェイに声をかけられ、リリスは答えた。
「みんなは大丈夫なの?」
「ああ、まぁな」
 大方、フェイが手当てをしたのだろう。傷も大分落ち着いている。
「ディールは?」
「平気、だ。先に行こうぜ」
(本当に………?)
 リリスは思った。先程の戦闘で1番ダメージを受けたのは他でもない、ディール自身なのだ。
「ディール………?」
 いつになく余裕のない顔。心無しか青白く、しかも息が荒い。
「我と共に生きるは癒しの───………っ!」
 治癒魔法を唱えるよりも早く、ディールが倒れる。支え切れなかったリリスは彼と一緒に転倒してしまった───。

後書き/サブタイトル『魔術師、覚醒!』

 リリスが謎を残しながらも初の召喚魔法を唱えました。この謎は物語の鍵になるもので、この鍵が明かされる時、一行の旅も終局に向かうのです。ディールは戦士ですからどうしたって攻撃を受けやすい(笑)次回はきっとリリスの無茶苦茶ぶりが見られることでしょう(ぉぃ)

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