「ねぇ、バッツと姉さん、どちらがアルコールに強いのかしら?」
ことの発端は、レナのこの一言だった。
「俺だ」
「オレに決まってるだろ!」
負けず嫌いな2人はすぐに火花を散らした。
バッツといい、ファリスといい、アルコールにはかなり強い。
今までも旅先では必ずといっていい程、酒場でエール酒やウイスキー、ワインなどを愉しんでいた。
「じゃあ、飲み競べをしてみようよ」
クルルが言った。
「そうね。場所は………ルゴルでどうかしら?」
ルゴル───。
バッツの父親、ドルガンの故郷でもあるこの地は、地酒が有名だ。その地酒は幻ともいわれる程、格別なものであるという。
「酒の名産地で一勝負なんていいじゃねぇか」
「そうだな」
2人も文句なしという感じだ。
かくしてバッツとファリスの飲み競べ一騎討ちがルゴルで行われることになった。
ここのバー───山猫亭はバッツ達が世界を救う以前からよく世話になっていたため、マスターのランフィーも快く承諾してくれた。
「さぁ、準備は整ったわよ」
「今回のお酒は幻のルゴル酒の中でも一級品といわれているシャルル=ロイゼの30年酒だって」
シャルル=ロイゼというのは、ルゴルの地酒を有名にした人物の名に由来している。
「酒はたくさんあるが、程々にしろよ。こいつはアルコールの量が半端じゃないからな」
ランフィーが言った。
「ああ」
「絶対負けねーからなっ!」
バッツの方は意外と落ち着いている。それに対し、ファリスはいつになく平静を失っている。
その理由は2つあった。
ファリスは幼年期を海賊達の中で過ごした。荒くれ達といえば、酒には滅法強い。ファリスも当然のように鍛えられ、いつしか仲間内では右に出る者がいないくらいの酒豪になっていた。その飲みっぷりは、女とは思えない程豪快である。
ファリスにはそのプライドがある。だから、そのメンツにかけてもバッツには負けられなかった。
これが理由の1つである。
もう1つは………自分でも馬鹿げていると、ファリスは思っていた。
「それじゃあ、始めるよ!」
クルルが合図をした。
1杯目。
ほぼ同時に飲み干した。
ランフィーがバッツのグラスに、レナがファリスのグラスに2杯目を注ぐ。
2杯目もほぼ同時に飲み終わった。
3杯目も、4杯目も同様だった。
このまま暫くは拮抗した戦いが続いた。
「バッツ、ファリス共に10杯目クリア!」
ビンの数にして2本半。2人とも顔色1つ変えない。
摂取量は徐々に増えていき、ついにビンの数が10本───グラスの数にして約40杯、というところで変化が見られた。
バッツがついに水に手を伸ばした。
「〜〜〜〜〜〜………」
それからというもの、バッツが急にペースダウンした。ファリスは相変わらずの飲みっぷりでペースを落とすどころか、増々勢いに乗っている。
ルールでは手が止まってから10秒経つと失格ということになっている。
「うぅ………」
新たに注がれたグラスを手にしたままバッツが硬直する。
クルルがカウントをし始める。
「………7………8………9」
そして………。
「………10! バッツの負けっ!!」
勝者は、ファリスに決まった。
「………………自信は、あったんだけどな」
やはり、海賊の名は伊達ではないようである。
「………ファリス!?」
ファリスが突然、倒れた。ランフィーが言わんこっちゃない、と言わんばかりに額を抑えている。
「姉さん!」
少々フラフラとはしていたが、バッツは割と普通だったため、ファリスを背負って宿屋まで急いで戻った。
「ファリス、しっかりしろ!」
こうなると、バッツにとってもう酔っているどころの問題ではなかった。
「姉さん、最近あまりお酒を飲んだりしていなかったから………」
「ファリスが浴びる程飲んだのって久し振りだよね」
団扇でファリスを扇ぎながらレナとクルルが口々に言った。
(じゃあ、何でそうまでして無理したんだよ!)
もちろんバッツはファリスが負けず嫌いだということは知っている。
だが、他にも理由がありそうなことにバッツは何となく気がついていた。
「バッツ………私とクルルは道具屋に行って、薬を調合してもらってくるわ。留守番頼んでも、大丈夫かしら?」
「ああ」
すっかり酔いが覚めてしまったバッツはぼーっとしながら返事をした。
(ファリス………)
バッツは脂汗を浮かばせているファリスの額を濡らしたタオルでそっと拭いた。
「………うう………ん、まだだ………」
うなされている。
バッツはそっとファリスの左手を握りしめた。
「こ………こは………?」
「目が覚めたか、心配させやがって」
ファリスの顔は相変わらず調子の悪さを訴えていたが、それでも先程よりはマシになったようだ。
「なぁ、何であんな無茶をしたんだ?」
バッツは酔い過ぎに効果があるという紅茶を煎れ、ファリスに勧めながら問う。
「そ………そんなの………ただ、負けたくなかったからに………決まってるだろ」
言いたくないなら、それで別に構わない、バッツはそう思っていたので、それ以上は追求しなかった。
「今、レナとクルルが薬をもらいに行ってる。向こうに行って、タオルの水を変えてくるからそれまで待ってろよ」
「ああ………」
そう言うと、バッツは扉の向こうへと行った。
バタン………。
ドアが静かに閉まる。
「バッツ………」
ファリスのもう1つの理由───それはファリスの、素直でない性格が影響していた。
バッツのことを好いているからこそ、勝ちたい。
また、同時に自分より優れていなければ気がすまない、という矛盾にあったのである。
(こんなこと、死んでも言えないな………)
ファリスは自嘲的に、笑った───。
後書き
100の質問で答えた飲み競べの話を小説化してみました。割とすんなり書けたので、嬉しいw ストーリーも結構気にいっています。ファリスの矛盾は私もよく悩まされます(笑) 好きだからこそ、勝ちたいし、同時に自分よりも勝っていて欲しい。そんな気持ちが少しでも分かって頂けたらこのお話は成功といえるでしょう。それにしても私の小説はいつもブッ倒れネタしかないんだろうか………( ̄ー ̄; ヒヤリ