紅い、マント。
それは、俺がまだ17歳だった時の、いや、もっと昔からの想い出が詰まっている───。
「バッツのこのマントは物持ちがいいな。丈夫だし、かっこいいし」
「ああ、これは元々親父の物だったんだ」
そう言って俺はファリスにこの真紅の外套にまつわる昔話をし始めた。
「あなた、またすぐに出掛けてしまうの?」
「ああ、2日後に出る。なぁに、すぐに戻ってくるさ」
そんな、日常的な俺の親父と母さんの会話。
いつもそうだった。母さんは心配性だったから、親父が帰ってきてくれないのではないかと不安になってた。
「バッツ。もう遅いからそろそろ寝ましょうね」
幼くて、俺はどうして母さんが寂しそうにしているのかは何となくしか分からなかった。でも………それは本人に、決して聞いてはいけないような気がした。
深夜───。
トイレを済ませようと目を覚ました俺は隣の部屋から明かりが漏れているのに気がついた。
そこには静まり返った部屋に僅かな明かりだけを灯す母さんの姿。
「おかあさん、なにをやってるの?」
「裁縫をしているのよ」
「さいほう?」
「そう、マントを作っているの」
膝に乗っているのは1枚の大きな大きな紅の生地。
「あの人───お父さんが旅先で風邪をひかないようにと思ってね」
丹精込めて縫われた紅い外套。その1針1針に母さんの気持ちが、願いが込められているのが分かった。
「さぁ、早く寝なさい」
「うん」
2日後───。
「じゃあ、行ってくる」
「待って、よかったらこれを使って」
差し出されたのは夜通し作っていたあの、マント。
「ステラ………ありがとう。だが、魔法のかかっている生地なんて高価な物、どうやって………?」
家は貧乏ではないが、そんな高価な物が買える程裕福でもなかった。
「それは………」
「!?」
親父は母さんの髪が、短くなってるのに気がついた。
「ありがとう、大切にする」
どうやって手に入れたのかが分かった親父は何も言わず、俺と母さんが見ている目の前で朱色のマントを羽織ってみせた。
そして、照れくさそうに、
「似合うか?」
なんて聞いた。もちろん母さんは似合うわ、と答えた。
「俺がこれを譲り受けたのは親父が死ぬ直前だったんだ………」
小高い丘の上、俺の横に座っているファリスに続きを語った。
───世界を旅して見て周われ───
───俺が死んだらステラの隣に埋めてくれ───
そして、最後に渡されたのが旅先でずっと使っていた荷物入れとあの、真紅の外套。
「親父がずっと愛用していた、んだ、このマントは」
なぜか、言葉が辿々しくなる。
「いい、親だな。羨ましいくらいだ」
「そうだな………」
古きよき日々の、記憶。
(ずっと大切にするからな、親父、母さん───)
俺は既に傾き始めた太陽に今は亡き2人の姿を重ねた───。
後書き
結構真面目なドルステ、バッツ視点のお話でしたが、どうでしょうか? バスの中でTOPのクレミン小説ネタを考えていてふと思いついたものです。ほら、クレスもバッツも赤いマントという共通点が………(笑)(←Fairyの好みバレバレ( ̄ー ̄; ヒヤリ) 最初はバツファリネタにするつもりで考えていて、あのマントはどうしたものか? と考えたところ、ドルガンの愛用品というのがすぐに浮かび、じゃあ何で愛用していたのか? で、ステラが作った=ドルステネタ、となったのです。