決戦前夜

 エクスデスとの最終決戦を控えた日の夜───。
 オレは飛空挺の自室で装備の点検をしていた。すると、どこからともなくドアをノックする音が聞こえてくる。
「誰だ?」
 聞いておいて言うのも変だが、オレにはそれが誰であるか分かった。
「ファリス、入ってもいいか?」
 ………やっぱり。
 その声の主はバッツだった。
 カチャッとドアを開ける音がしたかと思うと、バッツはあろうことかいきなりオレに抱きついてきた。
「なっ………何だよ、いきなり」
 バッツは答えない。
 ただ、オレの身体を強く抱きしめるだけ。
「………夢で、ファリスが突然消えたんだ。目が、覚めた時………いても立ってもいられなくなって」
 バッツの手に込められる力がだんだん強くなっていく。
 ………痛い。
 でも、痛いのはバッツの腕のせいだけでは………なかった。
 生きて帰ってこられる保証はどこにもない。正直言ってオレだって不安だった。
「………………明日、もしオレが死んじまったら………バッツはどうする?」
 ふと気がついたらオレはついそんなことを口走ってしまっていた。
 ………不安、だったんだ。オレは。
「ん? ファリス、そういうのはな………考えない方がいい。でも、もし万が一そんなことがあったら俺は───」

 ───2人分、生きてやる───

 耳元で囁かれた小さな小さな言葉。本当に聞き逃してしまいそうな程の声でしかなかったけれど。
「………後を追う、なんて言ったら殴ってやろうかと思った」
「ばーか、そんなの柄じゃないだろ」
 小さく笑うバッツ。
 そんなこいつを見てるとオレもさっきまでの不安が嘘のように消えていく。オレはそれを確かめるかのようにバッツの背中に腕を回し、胸元に顔を埋めた。
「お………おい、ファリス」
 狼狽するバッツだったが、やがて平静を取り戻すとオレの長い髪を指先に絡め取った。
「わ………や、やめろよ。くすぐったい………だろ」
 絡めた髪の先をオレの首筋に当てる。
「本当にファリスはココが弱いんだな」
 面白がるバッツ。
 振り解こうとすればできなくはないというのに、オレはあえてそれをしなかった。
「抵抗しないなら………もっとイタズラしちゃお〜っと♪」
 バッツは自らオレの身体を反転させた。耳元にバッツの吐息が吹きかかる。
「あ………ぅ、やめろっ………」
 首筋にキスをされても、バッツの腕の中でじたばたするのがオレにとっての精一杯の抵抗だった。
「かわいいっ〜♪」
「ば、バカ野郎! 人で遊ぶなっつーの!!」
 オレは照れ隠しに俯いた。心無しか頬が熱い。
「ファリス」
 俯いたままバッツの声を聞く。さっきまでとは違って、とても真剣なバッツの声。
「2人で生きような、絶対」
 そう言ってオレの顔を上向かせると、ゆっくり、そして優しく唇を重ねた───。

後書き

 かなり衝動的に書いてしまいました(汗)とはいっても短編は基本的に仕上げるのが早いんですけどね。少なくとも、私の中では。実を言うと、これはある一部分だけ実際にあった話をネタとして使っています(爆)前半はえらく真面目だったのに、後半は壊れ気味ですよね〜〜〜。今回はファリス側から書きましたが、もしかしたらバッツ側からの視点でお話をもう1度書くかもしれません。

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