俺は親父の故郷、ルゴルに暫く滞在していた。
既に季節は3月。この北の大地も大分暖かくなって、森林に生息する動物達もそろそろ冬眠から目覚める時期だ。
「そういや……」
そう思ったが、もうその日まで幾日もない。
大体、ここからタイクーンまで行くのに何日かかることか。
それに、行きたいのはやまやまだが、正直言うとあそこには行きたくない。等身大の自分をさらけ出すことのできない場所は俺にとって苦痛でしかないからだ。
(こういうのを矛盾、と言うんだよな)
だが、事実だった。俺にとって『自由』より大切なものは何も、ない。
だから、何とかして上手い方法を考えたかった。
「よし、この方法にするか」
懐から風のクリスタルの欠片を取り出し、目を瞑ってそっと静かに祈る。
俺は吟遊詩人へとジョブチェンジし、机の上にある羽ペンを手に取った。それから、思いついたことをさらさらっと紙に書く。
(吟遊詩人だからといって、簡単にできるわけないか………)
俺は書いては丸めてゴミ箱に捨てる、という行為を何度も繰り返した。
そして、何度も推敲に推敲を重ねた。
「………こんなもんか」
俺は羽ペンを置き、再びジョブチェンジをする。今度のジョブは召喚士だ。
「我が名の下にて集え! 風の精霊よ!!」
シルフを召喚し、先程書いたものを言霊として風に乗せる。
(頼んだぜ………)
後書き
久々、バツファリ。割と甘さ控えめですね。あまりホワイトデーらしいお話ではないですけど(汗)今回初めてやったのは、途中でバッツからファリスに語り手が代わること、それから詩を入れてみたこと。風や周りの風景の描写には割と気を配ってみました。