すべてはここから

「どうしても残るのか?」
「ああ」
「ドルガン………」
 俺はゼザに呼び止められた。今、ここで俺の本当の世界に戻らなければ、きっとこの先永久に帰ることはできなくなるだろう。
 だが俺にはどうしてもそれができなかった。暗黒魔導士エクスデスを封印したこの地を護り続けなければいけないという使命が俺にはあった。そしてそれ以上に気掛かりだったのが───。
 

 1年前のある日───。
 俺達暁の戦士は4人それぞれが別々に情報収集のために各地を巡った。俺は丁度リックスという辺境の村を目指した。そこにはクリスタルに関わる話を知っている者がいると他の街で聞いたからだ。
 この辺りは多くの木々が生い茂っている、そんな緑豊かな地だった。木々の間からは木漏れ日が、そして小鳥達のさえずりが聞こえてくる。
「お願い、誰か助けて!!」
 付近で女性の高い悲鳴がした。俺はすぐに剣を抜き、悲鳴が聞こえた場所へと駆け寄った。見るとそこには大量のモンスターに襲われている女性がいたのである。
 俺は彼女を庇うようにして前に立ち塞がり、モンスターを薙ぎ倒していった。
「大丈夫だったか?」
「ええ。………ありがとうございます」
「この辺りは割とモンスターも多い。女性が1人で歩くには危険だ」
 女性はステラと名乗った。リックスの出身だという。彼女の母親は高齢で身体が弱いため、毎日彼女が世話をしていたらしいのだが、突然体調を崩してしまったので危険を承知で薬草を摘みに森まで来たというのだ。
「本当に助けて頂いてありがとうございました。もしよろしかったら今夜、うちに泊まってはくれませんか? そうすればドルガンさんの探しているクリスタルの話を知る人物にも会わせてあげられますし」
 俺は薬草探しを手伝った上で、ありがたくそうさせてもらうことにした。
 疲れているはずのステラはリックスに着いてすぐにクリスタルの話を知る人物───この村の長老に会わせてくれた。
 話を聞き終わって、俺は少しホッとした。どうやら今回はガセネタではなかったようだ。このことを早く3人に知らせなければ………。そう思ったのだが、どうやら不覚にも先程のモンスターとの戦いで怪我をしたらしい。
 それを見かねてステラは暫くうちにいては? と提案してくれた。俺はたいした怪我ではなかったので最初は断わったのだが彼女がどうしてもと言うのでその通りにした。
「ドルガンさん、明日発つのですか?」
「ああ、そうすることになるだろう」
「そうですか………」
 彼女の顔が曇った。しかしすぐに表情を明るくして、
「目的を達成できるといいですね」
 そう言ってくれた。
 

 翌朝───。
 ベッドから起きた俺はステラが見当たらないので家の中を探した。すると彼女の母親の部屋で思いがけない光景を目の当たりにしてしまった。
「………ス………テラ?」
 彼女はベッドの上に横たわっている母親の側でずっと泣いていた。あまりに唐突だった。彼女の………母親は………亡くなってしまったのだ。
 俺は彼女に何も声をかけてやれなかった。ただ彼女の慟哭を静かに見守ることしかできなかった。
 せめて葬儀を済ませるまでは、と俺はもう少しステラの家に居座った。そうでもしないと彼女が壊れてしまいそうな気がしたからだ。
 彼女もだんだん冷静になって考えられるようにはなった。だが、彼女はこれから独りぼっちだ。それを考えると俺は胸が痛くなった。
 このままリックスに留まっていたい───。
 ずっと悩み続けた。使命なんかどうでもよくなりそうだった。
 でも………。
 俺はついに決めてしまった。
「ステラ」
「ドルガン………さん」
「ドルガンでいい」
「ドルガン………」
 俺の格好を見てすぐに分かったのだろう。彼女は今にも泣き出しそうな目で俺を見つめていた。その姿を見て俺は躊躇したが、それでも言うべく口を開いた。
「かなり長居をしてしまった。本当にありがとう、ステラ」
「嫌よ! 行かないで!! 私………貴方のことが………」
 俺はステラに抱きつかれた。彼女の頬からは涙が宝石のように滴り落ちている。俺はそんな彼女が愛おしく思えた。
 どれぐらいの間抱擁していたのだろうか?
 随分長い時間だったような気もする。
 やがて俺は彼女から身を引くと、村の工芸品を売っている店で買った銀細工の指輪を懐から取り出した。そして、言い聞かせるように穏やかな口調で話した。
「俺はどうしても行かなくてはいけない。でも、必ず戻ってくる。これはその約束だ」
 俺はステラの左手を取ると指輪をはめた。
「でも、私には何もあげるものが………」
 困惑した表情のステラ。
「あるさ」
 俺は彼女を引き寄せると、唇を塞いだ。


 それ以上に気掛かりだったもの。それはあの時の約束。
 そう、俺にはステラとの約束がある───。
「さらばだ!」
 俺はかつての仲間に背を向け、その場から去った。

後書き

 初のドルステでしたがいかがでしょうか? 自分としては思いっきり自己満でしたが、かなり気に入ってます。最初にドルステ小説を書こうと思って考えているうちに2人はどうやって出逢ったのだろう? ということに行き当たりまして。こんな形で書いてみました。まだまだ爪が甘いとは思いますが、そこら辺は勘弁して下さい(^.^;

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