古代遺跡の罠

「急いで土のクリスタルを止めなきゃ!」
 オレ達は飛空艇を降り、ロンカ遺跡へと足を踏み入れた。
 ………………のだが。
「随分とえらく罠が多いのぉ」
「それに、モンスターも強い」
 戦闘時、正直言って今のオレは殆ど役に立っていない。
 その理由は、オレのジョブが『シーフ』だからだ。
 円月輪で後方から支援してはいるが、後方支援には白魔道士のレナ、黒魔道士のガラフがいる。対して前衛はナイトであるバッツただ1人だけだ。
 オレはジョブチェンジをして戦士系のジョブを選ぼうと思った。だが他でもないバッツが、ロンカ遺跡を探索する時はシーフがいた方が便利だ、と言うから結局こうなった。
 以上の点から、オレは戦闘時になるとひたすらアイテムを頂く『盗む』のアビリティばかりを発動していた。


「もっと分かりやすい構造にしてくれよな………」
 普段は滅多に愚痴を零さないバッツの言い分はオレにもよく分かる。
 いい加減、マッピングをするのも疲れてきた。
「ねぇ、あれ………」
 レナ指し示す方向………それは。
「宝物庫だ!」
 そう言ってレナとバッツは宝箱へ駆け寄ろうとした。
「ま、待てバッツ、レナ!」
 オレは何だか嫌な予感がして、2人を呼び止めようとしたが………。
「うわっ」
「きゃっ」
 案の定、トラップが仕掛けてあった。
「バッツ! レナ!!」
 オレは咄嗟にロープを投げた。
「俺は、後だ! レナを早く………」
 バッツの指示に従い、オレは先にレナを救出。
 その後で辛うじて端に掴まっているバッツにロープを投げた。
 ………………だが。
「バッツ!!」
 重装備のバッツにはロープ1本だけでは耐えられなかったのだろう。
 ロープはあっという間に切れ、バッツは落下してしまった。


「バッツのことだから、きっと大丈夫よ」
 気を使ってか、レナはオレを励ます。
 オレだってあいつの腕前を信じていないわけじゃない。
「にしても、早く合流するに越したことはないぞい」
「そうだな………」
 オレがマッピングした地図を見ながら、バッツが落ちた場所の大体の見当をつける。
(意外と遠そうだな………)
 本当ならオレ達も落とし穴に落ちてしまえば万事解決なのだが………。
 オレだけならばともかく、レナやガラフにあまり無理をさせるわけには行かない。
「みんな後衛だからジョブを変えないとダメね」
 レナの提案でそれぞれジョブチェンジを行った。レナがモンク、ガラフが魔法剣士、そしてオレが白魔道士にそれぞれチェンジし、レナとガラフが前衛になった。本当はオレが前衛になるべきなんだが、オレが白魔道士なのは、白魔法をバランスよく習得するために、とレナが言ったからだった。


 暫くして、見当をつけた場所に辿り着いた時………オレは、途轍もないものを見た。
 神話級の怪物───ヒュドラにボロボロになりながらも独りで立ち向かうバッツの姿があったからだ。
「バ………バッツ! おい!!」
「ファ………リ、ス?」
(何てことだ! オレ達がいない間にこんなヤツなんかと、たった独りで戦っていたっていうのか!?)
 オレは自分の愚かさを呪った。
「姉さん、私達で何とかするからバッツの回復を!」
 オレはレナの声に無言で頷いた。
「我に、恵みを! ケアルラ!!」
 癒しの杖との相乗効果で、オレの唱えたケアルラは本来の効力よりも上がっていたが、それでも完治には程遠かった。
 オレは何度も魔法を唱えた。
「ファリス、もう大丈夫だから………援護して、くれるよな」
「バッツ………!」
 まだ怪我が治っていないというのに、バッツは剣を取り、レナ達に加勢しに行こうとする。
 オレはかぶりを振った。
「2人だけに、戦わせるわけにはいかないだろ。俺は、ナイトだ………」
 本当は、止めたかった。
 目の前で、傷ついているというのに、戦おうとするあいつを………。
「………………馬鹿」
 すると、あいつは一瞬だけ柔和な笑みを浮かべる。
「ああ、馬鹿かもな………」
 その声がオレの耳に届いた時には、あいつはもう走り出していた。


「1度、結界のあるところまで戻るぞい」
「そうね、『急がば回れ』っていうし」
 オレ達は最初のセーブポイントまで戻ることになり、そこで休憩を取った。
 先程の戦いで体力を消費した3人を休ませ、オレは見張りをする。
「1人で見張りは大変だろ………?」
「傷口が開くといけないし、無理すんな」
 お互いがお互いのことを心配していると気づいた時、オレとバッツは笑った。
「もう、大丈夫なのか………?」
 オレは火に薪を加えながら言った。
「ああ………隣、いいか?」
 バッツはオレの隣に腰を下ろした。真紅の外套が燃えている炎の光を反射して、一層美しい色に染まっている。
「ありがとな」
 オレは何でバッツがそう言うのか分からなかった。
「俺、さっきの戦いでファリスが止めてくれたこと………正直言って、嬉しかった」
「………止めろよ、そんなこと言うの」
 つい勢いでそんなことを口走ってしまったオレだったが、当の本人は気にしていないらしく、話を続けた。
「でもな、やっぱり俺はナイトだから………たとえ満身創痍であっても、戦わなければいけないんだ………分かるよな?」
「うん………」
 それを「誇り」というのだろうか。それはバッツの信念ともいうべき言葉だった。
「オレ………バッツがいない間、少し、恐かった………何だか、よく分からないけど………不安で」
「そうか………」
 大切なものを、失うというのは辛い。だから、オレは2度と失わなくていいように、今まで戦ってきた。
 でも、バッツが傷ついて瀕死の状態だった時………オレはバッツまでシルドラみたいにいなくなってしまったら………と、つい考えてしまっていたんだ。
「泣くなよ、ファリス………大丈夫だか………………おわっ!」
 オレはバッツに抱きついた。バッツが狼狽の声を挙げるのも構わずに。
 それは、オレにとってバッツがシルドラと同じ………いや、それ以上の存在だということに気づいたからかもしれない。

後書き

 リクエストは「バッツがいなくなって心配するファリス」でした。あんまりバツファリっぽくないかも(汗) 割と甘さ控えめに書けたことやスランプから脱出できたことは私としては嬉しいですねw(笑) 少し長くなっちゃったけど。最後になりましたが、大塚倫子様、相互リンクありがとうございます。感謝の気持ちを込めて記念小説を捧げます♪

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