Battle with the Princess

 それはある日の昼下がり、タイクーン城のテラスでのことだった。
 オレは呑気にクルルとお茶をしていた。
「姉さん!」
 そこへ息を切らして現れたのは実の妹のレナ。
「レナ、どうしたんだ?」
「それがね………これを見て」
 置かれたのはたくさんの───それはもう、そこに小山ができる程の───手紙だった。
「な、何だよ………これ」
「もしかしてレナお姉ちゃん、ラブレターとか?」
 うん、とレナは頷いた。それだけならまだよかったんだが。
「これ全部姉さん宛なのよ。それも、求婚の………」
「なっ! 何だって!?」
 オレが慌てるのを尻目にレナは淡々と続けた。
「そんなに驚くことないじゃない。姉さんもタイクーンの王女だもの。他国の王子や貴族達がこぞって姉さんのことを射止めたいと思っているわ」
 政略結婚とかそういうものは、オレは嫌だった。
 ただ、この身に流れる血が、それを全て否定する。
(矛盾しているよな………)
 オレは自嘲的に笑った。
「だって、ファリスはバッツのことが………むぐぐっ」
 慌ててクルルの口を塞いだ。
 事実、その通りだった。
 オレはバッツが好きだから、政略結婚とか王家のしきたりなんかに縛られたく、なかった。
「姉さん、気持ちは分かるわ。でも、バッツはもうずっとここへ帰って来て、いない」
 レナの台詞が意図していること、バッツがタイクーンへ帰ってこない理由を、オレは知っている。
(バッツはオレと、同じことを考えている………)
 自由を追求するあいつにとってここは、あまりにも窮屈だからだ。
「そんなの、嫌だ。オレは………自分より強い奴じゃなきゃ、認めない」
 言ってから、しまったと思った。レナの立場を滅茶苦茶にするとも取れる、台詞だった。
 オレは、気まずさから俯いた。
 でも………。
 レナはそのことをあまり気にしてはいなかった。
 むしろ、オレの懸念していた方向とは逆の方へ話題を持っていった。
「じゃあ、姉さん。姉さんを負かせる人なら結婚してもいいのね?」
「ファリスを負かせる人なんて王族や貴族の中にい………むぅぅっ」
 今度はレナがクルルの口を塞いだ。
「ああ、いいぜ」
 オレはサリサではなくファリス───それも海賊時代の───として答えた。


(要するに、全員叩きのめしてやればいいんだよな)
 オレが戦う王女だということは諸国にだって知れ渡っている。なんせエクスデスとの戦いを繰り広げていた張本人だからな。
 一部では姫が戦うなんて、との非難もあったが、どこの国でもオレが戦うことについてはそう悪い評価ではないらしい。(以前に兵士長のルータスがそう言っていた)
 だから、オレは周りを気にせず、思う存分戦える。
「魔法抜きだってファリスは強いよ、ね?」
「ああ、もちろん」
 オレは旅をしていた頃の服装に着替えて闘技場へと降り立った。周りにはタイクーン国民を始めとする観客で一杯だった。
「第1試合。トロンナ王国の第1王子、フェルス様との試合になります」
 トロンナ───ウォルスとカーウェンの中間に位置する国だ。
「試合開始!」
 スピーカーからアナウンスが流れる。
「サリサ姫。私は貴方に勝ちます!」
 オレは無言で剣を繰り出した。勿論、お互いの剣に刃はついていない。
(一撃で全てを決める!)
 カキンッ!
 フェルス王子の細身の剣が宙を舞った。


 その後も飽きることなく戦った。それはもう、ざっと40〜50人ぐらい。
 その全てをオレはたった一撃で決めていた。
「ついに最後の1人となりました。このままサリサ姫が勝ち続けてしまうのでしょうか? それとも………」
 アナウンサーが興奮して叫ぶ。でも、そんなことはオレにとってはどうでもいい。
(あと1人!)
 それで全てが決まる、ただそれだけのことだった。
「最後の1人は………ウォルス国でも剣術では右に出るものはいないと謳われていることで有名な貴族、ターリアス=リーヴェンです!」
 オレは相手を前にして、今までと全然違うことを感じ取った。
 先程まで戦っていた奴らとは違って、構えからして明らかに実践慣れしている。
 オレは表情を読もうとした。
 だが、相手は仮面───まるで青魔道士のような───をしていて表情は読めず、頭には貴族特有の巨大鳥の羽根をあしらった帽子を被っていて、端から見るととても変わった格好にさえ見えた。
「始めっ!」
 オレは猛然と相手に斬り掛かった。
 これも一撃で決めるつもりでいた。
 ガキンッ!!
(なっ! 受け止めやがった!?)
 今までにない立ち上がりに周囲の観客がざわめいた。
 オレは1度距離を取り、油断なく場を見渡す。
 キン、カン、カン、キンッ!
 お互いの剣が交差する。拮抗した戦いだった。
(へぇ………貴族にもそれなりに強い奴はいるもんだな)
 オレは純粋に戦うことを楽しんだ。
 グググッ!
(剣圧が………ッ! なんて重いんだ)
 相手の繰り出す剣はとても重かった。この剣圧の強さはきっとバッツ並みだろう。
「う、負けられない! 負けるものか!!」
「一国の王女が随分と、勇ましいな」
(え………!?)
 オレは一瞬戸惑った。
 そしてしまった、と思った時にはオレの剣は弾かれていた………。


 あの強さは本物だった。
 オレは自分が自惚れていたことに今更ながら気がついた。
 そして、取り返しがつかないことをしてしまった、ということも………。
『姉さん、全部終わったから部屋に通すわよ』
 レナからの内線(オレ達の部屋にはみんな城内専用の電話がついている)にオレはただ頷いた。
「お邪魔します、サリサ姫」
「………………」
 オレは無言だった。
「挙式はいつにしましょうか?」
「全部好きに、していいです………」
 オレは投げ遺りに答えた。
「じゃあ、こういうのも………?」
「っ///」
 オレは抱き締められた。ドクン、と心臓が高鳴り、顔を赤らめる。
 オレは為すがままにされつつあった。
「い、嫌っ! わ、私は………」
 無理矢理オレは逃げようとした。けれど、力強く抱き締められていたせいでそれは叶わなかった。
(レナの口車に乗せられたとはいえ、言い出したのはオレだしな………)
 オレは全てを諦めた。
(ただ、最後にバッツに………逢いたかったな………)
 自然と涙が頬を伝わる。それはだんだんと大きくなって………。
「………泣かないでくれよ、俺の………………ファリス姫」
(えっ?)
 唐突に繰り出された言葉。
 震える手で恐る恐るオレは仮面に手を伸ばし………それを剥ぎ取った。
「ば………バッツ!??」
「何だ、やっぱり気づいてなかったのか………」
 仮面の下から現れたのは、紛れもなくあいつの顔だった。
「どうして………!?」
「そりゃ、久々にここへ来たら何だか面白いことになってたからな。レナに頼み込んでこうしてもらったんだ」
 オレの気も知らずにしれっとした顔でバッツは答えた。
「何だよ、なかなか逢いに来てくれないから………こっちは結婚話でも決めちまおうと思ったのに」
 精一杯の強がりを、オレは言った。
「嘘つけ、今まで泣いてたくせに」
 先刻とは異なる、緩やかに抱き締められたオレの身体。この感覚が心地よかった。
「ああやって大人しくしていると王女って感じがするんだけどなぁ」
「悪かったな! どーせ、オレは大人しくないさっ!」
 オレはバッツの手を振り解こうとした。
 でも、もっと強い力で抱き締められてしまった。
「でもな………俺は大人しいサリサ姫じゃなくて、勇敢なファリスがいいんだ」
 耳元でそう囁かれ、バッツの熱を帯びた視線がオレの身体を射抜く。
 バッツは本当の意味で、オレをファリスと認めてくれた唯一の人だった。
 オレは上目遣いにバッツを見る。
「ん? ファリス、顔が赤いぞ」
「う、うるさ………///」
 口を、封じられた。
 バッツの甘く、濃厚な口付けによってオレは身体中が熱く、既に自分の力では立てない程に脱力しきっている。
 たった、それだけで………。
「好きだ、俺だけの………ファリス」
「バッツ………オレも、だ///」
 オレは腰に手を回し、バッツの身体に自身を委ねた───。

後書き

 ご馳走様ですvvv(自分で言うな) ファリスは純愛だなぁ、と我ながらいつも思っています。バッツの気障っぷりも増々ヒートアップしていますし(笑) バッツが貴族の格好を〜、はスタジオジブリの「猫の恩返し」でバロンが貴族の格好をして主人公を助けたシーンが元ネタです。分かった人、いるかな? タイトルの元ネタは………FF5に詳しい人なら絶対に気づくでしょう。

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