俺とゼザとケルガーはギードと呼ばれる稀代の予言者に会いに行くことになった。
エクスデスを倒す………その為に。
「ここが、ギードの洞窟か………」
「ギードってどんな奴なんだろうな………?」
「何言ってんだ、早く行くぞ」
ゼザとケルガーの会話を切り上げさせ、俺達は洞窟の中へと入っていった。
洞窟内に入るといきなりラジエーター───スライム状のモンスター───に襲われた。それも大量に、だ。
「ちっ! いきなりかよ」
「燃えろ! ファイラッ!」
ゼザが魔法を詠唱する。確かに大抵のスライム系は炎に弱い。
だが………。
半端にダメージを与えてしまった残りのラジエーターが『吸血』で反撃してくる。
「嫌な攻撃だぜ………」
ケルガーが素早い身のこなしで体を開いて攻撃を躱し、カウンターを仕掛ける。
俺もそれに便乗して剣を振るった。
「やれやれ、予言者ってのは住処にモンスターを飼い馴らしておくのか?」
などと、ケルガーが軽口を叩いた。
更に先に進むと、老魔法使い───メタモルファに遭遇した。こいつは面倒で、色々なモンスターに変身して俺達を攻撃してきた。
「ふぉっふぉっふぉ。お主ら、甘いな」
「何をッ!」
メタモルファの杖の先端が妖しく光る。それは先程までの変身とは異なっていた。
「なっ! ケルガー!??」
俺は慌ててケルガーを見た。横には当の本人が頭を抱えている。
「まずい、さっきまでの奴の攻撃からすると次に来るのは………」
老魔法使いは変身後、そのモンスターの特技を使ってきた。と、いうことは………。
「次に来るのは………『ルパインアタック』!!」
誰にも破られたことのないその技がメタモルファによって再現されようという時。
1人の青年が、俺達の間に割って入った。
(一瞬で………! こいつ、一体!?)
たった一撃でメタモルファを倒した、茶色の髪にダークレッドの外套を羽織った青年。
「こいつは攻撃の前、ほんの一瞬だが隙ができる。そこを叩くんだ」
そいつは俺達よりもだいぶ年下のように見えた。
「随分と腕が立つんだな」
ゼザが言った。
「まぁな」
そいつはドルガン、と名乗った。聞けば俺達と同じように賢者ギードに用があるらしい。
長い石の階段を降りたその先に例の賢者はいた。だが、てっきり人間だとばかり思っていた俺はその意外な姿に驚いた。
───賢者ギードは、カメだったのだ。
「全く、お主らが予言の戦士達か」
(ドルガンも、予言の戦士………??)
俺は思わずドルガンの方を見た。ドルガンは先程から黙ったままで、俺が見ても何も反応しなかった。
「今、正にエクスデスが甦った。奴を倒すことができるのはお主らだけじゃ」
「賢者ギード」
ドルガンはやっと口を開いた。
「俺は予言の戦士になどなるつもりはない」
「なっ!」
ケルガーが掴み掛かろうとしたのを慌ててゼザが制する。ドルガンは続けた。
「力などあっても誰も助けることはできない」
それは冷めた、目の色だった。
『………………』
俺達3人は黙り込んだ。どうやら深い事情があるらしい。
(類稀なる剣の腕を持ちながらもその力を信じようとしないなんてな………)
取り敢えず、ギードへの返事をそこそこに俺は無理矢理ドルガンを近くの村へと連れて行った。
ギードの洞窟があるこの島───ウル島唯一の村ウルバの宿屋へと辿り着いた時には既に夕日が傾いていた。俺達は4人で食事を取った後、部屋に戻った。
「少し風に当たってくる」
そう言ってドルガンは出ていった。
「ゼザ、いいのかよ」
「まあ慌てるな、ケルガー。奴だって黙ってどっか行こうなんて考えちゃいない」
その証拠にドルガンの荷物は置きっぱなしだった。勿論、剣を除いては。
「ちょっと、俺が見てくる」
「ああ、そうしてくれ」
俺はゼザの言葉を背に受け、その場を後にした。
ドルガンは島の西側の海岸の方ヘと向かっていた。俺は何をしに行くのか訝しんだ。
やがてドルガンはある洞穴へと入っていった。俺も気づかれないようにその後を追った。
中は当然暗く、やっと目が闇に馴れた、その頃───。
俺は目を疑った。3匹のウェアスネークに捕われた子供達が、そこにいた。
ドルガンは果敢にも1人でそれに立ち向かった。
ズバッ!
ドルガンの振るった剣がウェアスネークのうちの1匹を切り裂き、小気味いい音が辺りに響く。2匹目も難無く倒した。
だが、夜目が効きにくいこの地形はやはり不利だった。残る1匹のウェアスネークに足元を掬われ(すくわれ)、逆に締め上げられてしまう。
俺は躊躇わずに前へ躍り出る。
「時間(とき)よ止まれ、ストップ!」
ウェアスネークの動きを止め、その首を斬り落とした。
「………………すまない」
「なに、大したことない。それより、知ってたのか?」
「ああ、先程村の連中が騒いでいた」
子供達をなだめながら、俺は話を聞いた。
「さっきドルガンは力などあっても誰も助けることはできない、と言ったよな。わけ、あるなら話せよ」
「………………俺は、ルゴルの村出身だ」
ルゴル───辺境の、グロシアーナ大陸にある村の名前だった。確か、つい最近モンスターの襲撃に………。
そこまで考えて俺はハッとした。
「そうさ、ガラフの考えている通りさ。俺はそのモンスターの襲撃で、家族を亡くした。誰も、護ることができなかった………!」
皮肉を浮かべた笑み。それが、月夜に照らされる。
「ドルガン………」
何も言えなかった。もしかしたらのうのうと生きてきた王族や指導者の俺達を恨んでいたかもしれない。
考えてみて、ある矛盾に俺は気がついた。
「それならば、なら何故この子達を助けた? 知らぬ振りをしていればよかったじゃないか」
「………………」
ドルガンは答えなかった。だが、その瞳は物語っていた。
───2度とあのような目に遭わないために。そして、自分と同じ思いをして欲しくなかったから───
「ドルガン、改めて頼む。俺達の、力になって欲しい」
「ああ………」
ドルガンは冷めた表情をほんの少しだけ和らげた。初めて信頼してくれたように俺は感じた。
俺達はその後、改めて賢者ギードのところを訪ねることになる。
そして、予言の戦士は実現する。
『暁の四戦士』という、名を冠して───。
後書き
暁の四戦士が好きな人ならきっと1度は思い描くであろう、出逢いの瞬間、そしてパーティの結成。ありがちではありますが、Fairy的にはガラフがドルガンの気持ちを汲んであげていたんだろうな………という具合で話を進めていきました。最後になりましたが、kensirouさん11001hitおめでとうございます! リクエストありがとうございました!