不治の病、愛の強さ

 ステラが、倒れた。
 医者には………不治の病だと、宣告された。
「ねぇ、あなた」
 辛そうな、ステラの顔。
 俺は返事を忘れてステラを抱き締めた。
「私、死んでしまうのかしら………」
 死を、受け入れている瞳が、そこには既にあった。だが、その瞳は同時に死にたくない、とも訴えていた。
「大丈夫だ、俺が何とかする。絶対に」
 死に抗うことは、いけないことなのか?
 生きたい───そう願うものが何故死なねばならぬ。
「………怖いの。あなたと、バッツから離れるのが」
 それは未知への、恐怖だった。


 それから、ステラの病魔との戦いが、始まった。
「ねぇ、このことはバッツには………」
「ああ、分かってる」
 バッツには、知って欲しくなかったのだろう。


 ある日───。
 俺はステラを誘って、2人で近くの森を散歩した。
「いつ来ても、ここは素敵ね」
「ああ、俺達が初めて逢ったのも………この辺りだったな」
 この世界を破滅へと導く、奴との戦いの最中(さなか)………俺と、ステラは出逢った。
「今でも本当に感謝しているわ、ありがとう」
「よせ、人として当たり前のことをしただけだ」
 そう言いながら、初めて逢った時のことを、俺はそっと思い出していた。
「あなたに逢えたこと………本当によかったと、思っているわ」
 ステラの中では時が止まっていた。
 それが、俺にはたまらなく哀しかった。
「ステラ………………!?」
 俺はステラの異変に、気がついた。
「だいじょ………うぶ………ごほっ、ごほっ」
「おい、しっかりしろ!」
 赤い血がエメラルドの髪を、穢していく。
 俺は、ステラを抱きかかえて急いで家へと戻った───。


「急激に身体が弱っておる。麓のエルダの町まで行って薬を買って来なければ………助からないじゃろう」
 リックスで唯一の、年老いた医者が言った。
 エルダの町までは半日以上かかる。今から行くと、すぐに野宿をしなければならなかった。
 だが、俺は構わずにエルダの町を目指した。バッツをあいつの幼馴染みの家へと預けて。
 本当ならば、野宿をしないで山を越えることは危険だった。冬はモンスターの出現率も高く、しかも強い。
 俺は幾度となく戦った。返り血を浴び、その身を汚してでも、進んだ。
 最愛の、ステラのために………。


 俺がリックスへ戻ってきたのが、次の日の夕方。
「今戻ったか」
「ああ」
 俺は返事をした。
「急いで飲ませるんじゃ。その間に儂は家で他に効きそうな薬を探してくる」
 そう言って、年寄りの医者は出ていった。
「ステラ、大丈夫か!?」
 返事は、ない。
 ただ聞こえるのは、今にも止まってしまうのではないか、という息遣いのみだった。
 俺は急いで薬瓶の蓋を開け、ステラの口にあてがおうとして、止めた。
(自力で飲めない程、体力が落ちている、のか………)
 俺は、躊躇いもなく自ら薬を呷った(あおった)。この薬はとても強く、健康な人間が飲むと逆に害を為すという代物だったが、俺は構わなかった。
 ステラを抱き起こし、その唇に自分の唇を重ねる。そうやって少しづつ薬を飲ませる。
 俺は激しい目眩に襲われたが、それでもその行為を止めようとは、しなかった。
「あ、なた………ありが………とう」
 儚い笑みを浮かべるステラに、俺は何も声をかけてやれなかった。
 そんな俺の顔をステラの白く、か細い手が優しく撫ぜる。
 俺は無力な自分を、呪った。それこそ、狂う程に。
「そんなに………思い詰めた顔を、しないで。私は、だいじょう、ぶだから」
「ステラ………」
 ステラはそっと、口元を綻ばせて笑った。
 何故、こんな時にまで笑っていられるのか?
 辛いのにも関わらず。
「愛してい、るわ、あ………なた。誰よりも………い、ちばん………」
「俺もだ、ステラ………」
 ステラの微笑み───それが、彼女の強さだった。
 俺にはそう、思えた。
 俺に不安な顔をして欲しくなくて、心配をかけたくなくて、そうするのだ。
 天使のように、いと高き慈悲をもって。
 俺は、ステラをそっと抱き締めた。
 この不安が早く消えるようにと、ただそれだけを祈りながら───。

後書き

 ここ最近甘い系ばかり書いていたので、切ない系にチャレンジしてみました。たぶんこれが、私にとって初の本格的な切ない系だと思います。1時間強で書き上げてしまいました。お薦めシーンはドルガンがステラに口移しで薬を飲ませるところですvvv でも、甘くならないように常に切なくなるようにと注意して書きました。

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