希望は大地に恵みを与え
勇気は炎を灯らせ
いたわりは水を命の源とし
探究は風に叡智を乗せる───
(ミンウ=セネスティス著『リュミナステア・プロペリタ・ヴェリトラーダ』(カルナック古代図書館所蔵)より抜粋)
タイクーン───竜騎士の末裔が治める緑豊かな地に間もなく夜明けが訪れようとしていた。
この半島にあるタイクーン城は代々風のクリスタルを護る役目を担っている。現在の城主はアレクサンダー=ハイウインド=タイクーン。平和を愛し、争いを好まぬ優しき王である。
やがて地平線から黄金の光が白亜の城を染める。
タイクーン城飛竜の間───世界で唯一の飛竜が存在する場所。飛竜は心正しき者しかその背に乗せないという。また、飛竜の舌は万病にも効くといわれている。
その飛竜の間にて急ぎ足で飛竜の元へと駆け寄る人物がいた。タイクーン王である。
「お父様!」
背後からタイクーン王を呼び止める1人の少女の声。タイクーン王の娘にして、この国の王女レナ=シャーロット=タイクーンだった。
「どうしても行かれるのですか?」
「レナ、お前は城を守るのだ。決して追ってきてはならぬぞ」
「でも………………」
王の身を案じるレナに事の重要さを伝える。
「風の様子が変なのだ………。儂は、風の神殿のクリスタルの所へ行かねばならぬ」
「ええ………私にも感じられます。でも、お1人では………」
クリスタルにもしものことがあれば、世界は今のように平和ではいられなくなるだろう。レナもそのことは重々承知している。
「心配するな」
王が飛竜の背に乗ると飛竜は静かに上体を起こし、一声鳴いた。そして翼をはばたかせると不安げに見守るレナを背にタイクーン城を後にした。
タイクーンの北部に位置する内海を航海する一隻の船───荒くれ者達率いる海賊船であった。
船内は海賊達が所狭しと動き回っている───舵を取る者、見張り台に立つ者。
そんな中、1人の青年が船の尖端にたたずんでいた。彼の名はファリス。この海賊団の頭である。
穏やかな風が吹き続け、彼の長く、紫色の髪がなびく。彼はこの風が永遠に続くと思っていた。だが………。
「風が………止まった………」
風がただ止まったのではないことに彼は直感的に気づいたのだ。
そのことに気がついた者がファリスの他にもいた。
「風が止まったぞ! 急がなくては!!」
「風が………止まった………。お父様の身に何か!?」
虫の知らせ、とでもいうのだろうか。レナはそれを肌で感じ取ると、父親を追うように飛竜の間を後にした。
一方、タイクーンの北に位置する風の神殿。ここはその名の通り、最上階のクリスタルルームに風のクリスタルが安置されている。
タイクーン王は急いでそこを目指した。クリスタルを護るために。しかし───。
「なにっ!?」
風のクリスタルは眩い光を放ち、タイクーン王の祈りも虚しく砕け散ってしまったのであった………。
後書き
長編いよいよスタートです。これのために再びFF5を始め、しかもセリフをメモしながらプレイしたりと日々苦労をしています(^.^; 序章の始めは絶対に「希望は大地に〜」を使おうと書く前から決めていました。はっ! まだ主人公出てない!! 哀れ、バッツ君(笑) まぁ、これからも宜しくお願いします。