第1話 邂逅

 タイクーンの南───緑豊かな森と平原が織り成す地だ。
「ボコ、ここで待ってろ」
 ボコと呼ばれたチョコボはクエ! と一声鳴き、返事をした。
 服装からすると旅人であろうか。まだ若くも精悍な顔つきに栗毛色のクセ毛頭。そしてチュニックの上からは赤いマントを羽織り、背中には片刃の剣───ブロードソードを背負っている。
(ここら辺だよな、隕石が落ちたのって)
 先程、近くで物凄い衝撃音と共に隕石が落下したため、青年は様子を探りに来たのである。
「───!!」
 見るとゴブリンが倒れている少女を連れ去ろうとしているではないか!
 青年はすぐさまブロードソードを鞘から抜き、一気に突っ込んだ。突然の出来事に2匹のゴブリンは対処が遅れる。
 青年はゴブリンに反撃の余地を与えずにもう一撃加え、畳み掛ける。
「大丈夫か?」
「え、ええ………」
 状況を掴むのに時間がかかったようだ。少女は暫く黙っていた。
「ありがとうございます。私はレナ。あなたは………?」
「俺は、バッツ。チョコボと一緒に当てのない旅をしてる………」
「バッツ………」
 レナと名乗った少女は空から降ってきた隕石を眺め、呟いた。
「これが突然空から降ってきて………爆風で飛ばされて、気を失って………」
「隕石か?」
 青年───バッツが尋ねる。
「隕石………? 風が止まったのと何か関係が………?」
 彼女は首を傾げる。
「本当にありがとうございます。お礼をしたいのですけど急がなくてはならないの………」
「おいおいちょっと待てよ………」
 お礼も早々に急いで立ち去ろうとするレナをバッツは引き止めた。
 すると………。
「何か聞こえない?」
「えっ?」
 急に彼女は立ち止まり、辺りを見回した。
「う………………助けてくれ………」
 誰かの呻き声が聞こえる。バッツはレナと一緒にその声の主を探した。
「あっちだ!」
 バッツはレナの手を引きながら落ちてきた隕石のすぐ側まで行った。見るとそこには60歳ぐらいの老戦士が倒れている。
「大丈夫?」
 レナが声をかけた。
「ここはどこじゃ………? あいたたた………頭を打ったようじゃ」
「ここはタイクーン城の南だ。じいさん、あんたの名前は?」
 何故こんな所に老人が倒れているのか? 2人は疑問でならなかった。
「………どうしたんじゃ? 思い出せん………何も思い出せんぞ!!」
「頭を打って………まさか記憶喪失に!?」
 どうやら打ちどころがかなり悪かったらしい。
「………ん! そんじゃ、わしの名前はガラフじゃ!」
「他には?」
「………………だめじゃ………名前以外のことは何も思い出せんぞ………」
 ガラフと名乗った老戦士は頭を抱え込んだ。
 レナはバッツに向き直ると、頭を下げる。
「本当にごめんなさい。急がなくてはならないの………」
「そんなに慌ててどこに行くんだ?」
「風の神殿に………」
 彼女が場所を告げると、ガラフは目を見張った。
「風の神殿!! わしもそこに行かなければならなかったような気がするぞい!! わしも行くぞ!」
「でも………」
「行かねばならんのだ。連れていってくれ!!」
 ちょっぴり彼女は不安だったのだろう。彼女はバッツはどうするのか尋ねた。
「俺は旅を続ける」
「そう………。バッツ、どうもありがとう! さよなら………」
「さらばじゃ!」
 そう言ってレナとガラフはその場を後にした。
「レナにガラフ、か………」
 誰に言うわけでもなくバッツはそう呟いた。
 黄色い牡のチョコボ───ボコが『いつまで待たせる気なんだ!』とでも言わんばかりに鳴く。
「分かったよ、ボコ。行くぞ!」
 旅には不思議なことがつき物だ。だが、今日はやけに不思議なことが多いような気がする───バッツはそう思いながらその場を立ち去った。
 

 進路を北西へと変え、トゥールの村へと向かうべくバッツはボコと一緒に平原を駆け抜けていた。
 すると突然、ボコがスピードを落として止まった。お陰でバッツは鞍から落下し、尻餅をついてしまった。
「いててて………ボコ! 急に止まるな! 何だよその目は!」
「クエっ! クエクエっ!」
 ボコはバッツに何かを訴えているようだった。
 何年も一緒に旅をしているだけあってバッツはすぐにボコの言いたいことが何であるか分かった。
「じいさんに、女の子だもんな。それにこの辺りはゴブリンが多い。………分かったよ、ボコ」
 バッツが手綱を握ろうとした時、ふいに聞き覚えのある声が叫び声となって聞こえた。
「あれは………レナとガラフの声! ボコ、行くぞ!!」
 地割れが起きやすい谷間。だがバッツはボコを上手く乗りこなし、それを回避する。同時に前方から現われた数匹のゴブリンを一気にブロードソードで蹴散らす。
 彼はレナとガラフが気絶しているところまで駆け寄るとボコの後ろに乗せ、急いでその場から立ち去った。
(ここまで来ればひとまずは安心だな)
 バッツはボコから飛び下り、小高い丘に登って辺りを見回した。隕石が落ちたせいか、いろんな場所に地形の変化が見られる。
「うっ………………」
 レナは目を擦り、辺りを見回した。
「よう!」
「バッツ! 本当にありがとうございます」
「おいおいよせよ」
 レナにまたもや頭を下げられ、バッツは明後日の方を向いた。
「隕石が落ちた時のショックであちこちで崖崩れや地割れが起きてる。この先のトゥールに通じてた道も塞がっちまったみたいだ」
「早く、風の神殿に行かないと………」
 レナの困り果てた顔を見たバッツは何とかして彼女の役に立ちたいと思った。
「うっ………う………風の神殿に………急がなくては………」
 バッツはガラフの方を見遣る。
「このじいさんも風の神殿か………。やっぱり、俺も行くぜ」
「え? ほんと!!」
 レナの驚きにバッツは頷く。
「親父の遺言なんだ。世界を旅して見て回れ………。それに………風が呼んでる」
「とか何とか言って本当はこの子にホの字なんじゃろう?」
 鋭いツッコミ───それは気を失っているはずのガラフから発せられたものであった。
「じいさん、気がついてたのか!」
「あったりまえよ! ………だが、道は塞がれてしまったぞ………………」
「………………」
「………………」
 ガラフの言葉にバッツとレナは俯いて黙る他なかった。
「でも、行かなくちゃ!」
 レナが顔を上げる。そしてその言葉にガラフも頷く。
「よしっ! 行こうぜっ!」
 バッツの前向きな声が辺りに響き渡った───。

後書き

 やけにセリフの多いバランスの悪いお話になってしまいました(汗)ゲーム中では情景描写は一切なく、キャラのセリフによって全てを表します。でも、小説には情景描写が必要で、いらないセリフが当然出てきます。そこをいかにして書くかが今後の課題ですね。

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