I miss you...

 まだ、旅をしていたあの頃の事………。


 いつからか、サザンビークに来る度にククールと一緒にバザーを見るのが当たり前になってた。私が誘うわけでもなく、ククールが誘ってくれるわけでもなく…ただ、自然と成り行きなんだけど。
「ククール。遊んで来なくていいの?」
「こんなに素敵なレディが側にいるのにどっか行く必要なんてねーだろ。大体、1人にしておくとまた何があるか分からないし」
「もぅ、ククールといる方が危なくて仕方がないわよ」
 口では憎まれ口を言うものの、本当はククールが言外にどんな意味を込めて言ってるのかを私は知ってる。…きっとリブルアーチでの事を言ってるんだわ。あの時の彼は本当に自分を責めてたから…。
 初めて逢った時はなんて軽薄な人なの! なんて思ったけど、案外最初のあの台詞は本当なのかもしれないって最近は思えるようになった。
「なぁ、初めて一緒にバザーを見た時の事を覚えてるか?」
「覚えてるわよ。何だか随分昔のような気がするけどね」
 そう、サザンビークのバザーを初めて見て回った時はとても嬉しかった。ククールに太陽と月のシンボルが彫られている鈴を買ってもらって…2人で1つずつ分けたの。その鈴は絆を深めるというジンクスがあって、私は知っててそれを渡したわ。…ククールは勿論知らなかったみたいだけど。
「ねぇ、ククールにお願いがあるんだけど…」
「何か買いたいものでもあるのか?」
 ククールの隣にいるといつも感じる香りが私の鼻をくすぐる。甘くて、どこか切な気で、それでいて安心出来る匂い。ククールの付けている香水のこの匂いが私はとても好きだった。
「まあね。香水を付けてみようかなぁーって」
「ゼシカがか? 珍しいな」
「うん。でもどれがいいのかさっぱり分からなくて…」
 ククールのセンスの良さは私も認めている。
「じゃあ見に行ってみるか…」
 ククールに連れられて、私は香水を売っている店へと歩き出した。


 店棚に並べられた色とりどりの香水───ピンクやオレンジといった暖色系もあれば反対に青や緑といった寒色系もある。
 あまりに多いからどれを取れば良いのか全く分からなかった。困って私がククールの方を見ると、
「まずは自分が気に入ったやつの見本を取ってみろよ」
 って言うから、私は迷った揚げ句にハート形のボトルに入った香水の見本を手に取った。
「直接嗅ぐなよ」
「それぐらいは分かってるわよ」
 手で扇いで匂いを嗅ぐと、甘い香りがした。何だかとっても女の子っぽいかもしれないけど、どうも好きになれる匂いじゃなかった。
「どう?」
 ククールは私の手から小瓶を取って同じように匂いを確かめようとした。五感を研ぎ澄ます為の癖なのか、彼は目を瞑っている。
(ククールってホント、何やっても様になるのよね…)
 思わず見蕩れている自分がいる事に気が付いて私は動揺した。幸い、ククールは気付かなかったみたいだけど。
「合わなそうだな…。ゼシカは十二分に色気があるから甘いのは合わないんだよ。もっと大人っぽい爽やかな匂いがいいと思うぜ」
(色気、なんて言われてもねぇ…)
 いつもの口説き文句であって、ククールにとっては挨拶みたいなもの。なのにこう、改めて言われるとドキッとしてしまう。
「これならいいんじゃねぇの?」
 ククールから小瓶を受け取って私は匂いを嗅いだ。甘酸っぱい柑橘系の匂いが鼻腔をくすぐる。うん、これなら好きになれそうな気がする。
「これにするわ」
「そうか、それは良かった。ゼシカに気に入ってもらえてオレも嬉しいぜ」
 あぁ、そんな笑顔で言わないで。目のやり場に困ってしまうから。
 私はさっきからの動揺を隠しつつその香水を買った。




「この香水を付ける度…アイツの事を思い出すなんて、ね…」
 今はいない彼の事を思い浮かべる。甘酸っぱい匂いが切なく感じられた───。

後書き

 ククールって香水付けてそうですよね。ゼシカは逆に普段は付けなそうだなぁって。いつもよりやや短かめでしたがどうでしょうか? それから今回の小説は100ノアイの「80 半身」と話が繋がっています。また、明確には書きませんでしたが最後の部分は同じく100ノアイの「78 行かないで。」の後日談です。ちなみにFairyの個人談なのですが、私は香水を初めて選んだ時、直接嗅いでゴホゴホやりました(ぉぃ)

プロット※要反転

 ゼシカ1人称。
 サザンビークでゼシカが香水を選ぶ。香りに敏感な文章にする事。

ククール「ゼシカが香水を付けるなんて珍しいな」
ゼシカ「うん。でもどれがいいのかさっぱり分からなくて…」
ククール「ゼシカにはね、たぶん甘い匂いは合わないかな。もっと大人っぽい爽やかな匂いがいいと思うぜ」

 ククール、柑橘系の香りを手にする。

 場面変わって、エンディング後のリーザス村。

ゼシカ「この香水を付ける度…アイツの事を思い出すなんて、ね…」

 一応、「行かないで。」に上手くリンクするように。

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