「はぁ………」
私は今日何度目になるか分からない溜め息を吐いた。
今日は女の子なら誰でも気になってしまうあの日。私も…とチョコレートを作ってみたけれど、肝心のアイツはここ数カ月顔を見せてくれない。
別に、他の女の子といちゃついてるとかそういう事を気にしてるんじゃなくて、単に………って結局嫉妬してるのかもね、私は…。
「ゼ・シ・カちゃん」
呼ぶ声は振り返るまでもなく分かってる。ラグサットだわ。
これがククールだったら…と私はまた溜め息を吐いた。
「何よ、ラグサット」
「ちょっと外で話したい事があってね、いいかい?」
「ええ」
私は二つ返事をした。
「で、話は何?」
私は庭に出てラグサットを振り返った。
「君との婚約の話、正式に決まったよ。お母様の方が承諾してくれたからね」
「………えっ!?」
いずれは有り得る話だとは思っていたけど(本当はイヤだけどお母さんならやりかねないから…)、まさかこんなにも早く話が進んでしまうなんて………。
私は黙って俯いた。
それを恥ずかしがっていると勘違いしたのか、ラグサットは私との距離を詰めようとした。
「ゼシカちゃん、もっと喜んでよ」
その声さえも、本当は聞きたくない。ラグサットには悪いけど…ね。
ただ、今すぐ彼の声が聞きたかった。
(ククール…来てくれないと、私………)
びゅっん!
ラグサットの側を掠めて近くの木に深く突き刺さる。
(これは…この矢は、もしかして…)
「お前にゼシカは渡さねぇ!」
「ククールッ!」
あぁ、やっぱりククールだ。安堵の溜め息を吐く私。
「何だね、君は。いきなり危ないじゃないか」
ククールは無言で私の前に立ちはだかり、レイピアを抜いた。
「(ちょ、ちょっと…ククール!)」
「(大丈夫…手荒なマネはしないって)」
服の袖を引っ張りながら止めようとする私にククールは小声で囁いた。
「てめぇの方こそ、ゼシカの気持ちを考えた事あるのかよ。無理矢理ってのは1番嫌われるってのを胆に命じておくんだな」
剣先をラグサットに突き付けてククールは言い放った。
ラグサットが私の方を見てきた。
私は気まずくなって、でもどうしていいのか分からずに戸惑った。
「ふぅ…ゼシカもオレに負けず劣らず大変だな」
「あら? 私はククールとは違って遊び好きじゃないからそんなに困った事は無いわよ」
部屋に戻っていつものやり取りを始める私達。
「連れないなぁ、折角久々に来てやったのに。『ククール! 逢いたかった…』ぐらい言えよ」
「別に私は来て欲しいなんて一言も言ってないわよ」
冷たく突っ撥ねる私。
素直になっちゃうと付け込まれるからこれが丁度いいのよ。うん、そうだわ。
「とか言っちゃって…これは何だろうな〜♪」
「ちょ…ちょっと勝手に触らないでよっ!」
テーブルに置いてあったラッピングしたばかりの箱をククールが開けようとする。
「うわぁ………」
(何よ、固まっちゃって………どうせ、私のなんか…)
私はいじけたくなった。
だって、ククールの事だもの。きっと他の女の子からも貰ってるはず…。
「ゼシカ、食べてもいい?」
「ぇ? あ、うん。………でも、ククールは他の女の子からも貰ってるんじゃないの?」
目線を合わせずそっぽを向いたまま私は答えた。
「それってもしかして…嫉妬?」
ククールは私の顔を覗き込んでくる。止めてよ、その蒼い瞳で私を見ないで。
「嬉しいぜ、オレは。何たってゼシカがヤキモチ妬いてくれるんだからな」
ちなみにオレはくれるって言ったチョコを全部断って来たけどな、なんてさらっと言わないでよ。そんなの、ずるい…反則だわ。
「知ってるか? チョコレートはな、人間の体温で丁度溶けるんだぜ…」
「ぇ…きゃっ」
ククールはチョコを咥えたままその唇を私のそれに押し付けてきた。
「ん…っ、うぅん、あっ……」
久々なせいもあってか頭がボーッとしちゃう。
何度も付けたり離したりを繰り返し…。気が付くと私の口はとても甘い香りがした。
「ゼシカもチョコもとっても甘くて美味しいぜ〜」
「馬鹿………///」
私ははにかんだ。
ククールは笑いながらもう1個のチョコを口にする。…と、そこで顔色が変わった。
「ゼシカ…何入れた?」
「えっ? どこか変な味するの!?」
ククールは首を振る。
「酒の味がする」
「あ…洋酒を入れたから。確かスト…何とかとか言うお酒」
ククールは目を見開く。益々顔色が変わった。
不振に思った私はククールに訊ねた。
すると………。
「『ストレーガ』だろ? すっげーアルコール高ぇヤツ。オレだって飲まねーぜ、滅多にな」
そこでククールは一端間を空けた。
「理由は、催淫効果があるからだ」
(………ぇ?)
今度は私が驚く番だった。催…ちょっと待ってそれって、つまり………!??
「仕方ないからちょっと酔いを覚ましますか、ゼシカちゃん」
ヤラシイ笑みを浮かべ迫るククール。
駄目だわ、完全に酔ってる! 私はククールの身体を押し返そうとしたけれど、逆にベッドに押し倒されてしまった。
「駄目っ! 嫌だってば!!」
それでも抵抗し続けたけど、両手もククールの手に封じられて仕方なく観念して…。
でも、何故かこれから予想される事態には至らなかった。
「ぇ? あれ??」
恐る恐る目を開くと、酔いが回ったらしく、そのままの状態で眠ってるククールがいた。
「何よ、もぅ…。何だか馬鹿馬鹿しくなってきたわ………」
ホッとしている自分がいるのと同時に何だか物足りない気がして…それを自覚してしまって複雑な感じ。
でもこの事はそっと黙っておこう。でないときっと付け上がるわ。
私はそっとククールの身体をどけてその隣に寝そべった………。
後書き
復帰後1作目からいきなり甘くて申し訳ないですm(_ _)m 思わせ振りサイコー! とか1人で悦んでました(爆死) ちなみにストレーガは「魔女の酒」とも言われていて、実在するイタリアのワインです。本当に催淫効果があるとか無いとか…(マテ) 魔術の本に載ってたからネタにしてみました。プロットを載せたので興味がある方は反転させて読んで下さい。
プロット※要反転
バレンタイン編。エンディング後のリーザス村。ククールがゼシカとラグサットの間に弓を射って割り込み。
ククール「お前にゼシカは渡さねぇ!」
反論するラグサットに対しレイピアを抜き放ち、突き付ける。かなり殺気立たせて(笑)
ククール「てめぇの方こそ、ゼシカの気持ちを考えた事あるのかよ。無理矢理ってのは1番嫌われるってのを胆に命じておけ!」
ゼシカのあげたストレーガ入りのチョコレートでククール酒乱(笑)
ククール「知ってるか? チョコレートはな、人間の体温で丁度溶けるんだぜ…」
ゼシカ「ぇ…きゃっ」
ククール、チョコレートを口に咥え、そのままゼシカの唇を奪う(マテ)
ゼシカに襲い掛かり…ってところで酔いが回って寝ちゃう。
ホッとしたようなちょっとがっかりしたような複雑なゼシカちゃんw
ゼシカ「何よ…もぅ」