情報が思うように集まらずこの街で足止めを食らっていたので、オレは例によって酒場で暇を持て余していた。
「ククールッ」
1人のバニーガールがオレの側に来る。
オレは空っぽになっていたグラスに酒を注いでもらった。
「うふふっ…今日もよく飲むわね」
「マリーナは今日も素敵だね」
「んもぅ、お世辞が上手いんだから」
オレが一気飲みしたグラスにもう一杯酒を注ぐ。
「今日は随分とペースが速いのね」
オレがいつもより飲むスピードが速いのにはわけがある。
まぁ…色々と理由はあるんだが。
1番の原因はあの、勝ち気なお嬢様のせいだ。
ちょっと口説くとすぐに怒る。
しかも、今日は特に酷かった。特大のメラまでお見舞いされたからだ。
もっとも、メラゾーマじゃなかっただけマシだけどな。
「ねぇ、ククール。ポッキーゲームしない?」
オレの身体に軽く触れながら彼女は言った。
こんな気分の時は、女と遊んで何もかも忘れるに限る。
「いいぜ」
「じゃあ…いくわよ」
彼女はポッキーの端を咥え、オレの顔を両手で包む。
甘く魅惑的な、この世界の女独特の匂いがオレの鼻を掠める。
まさにそんな時、酒場の扉が開いたことにオレはこれっぽっちも気づかなかった。
「メラゾーマッ!」
不意に放たれた火球の呪文。
当然、オレは避ける間もなく。
「サイテーッ!! アンタなんか迎えに来なければよかった!!」
目の端に薄らと光るものを浮かべていたのは気のせいだろうか?
ゼシカはオレにその言葉を投げ付けるとそのまま出て行ってしまった。
(何で…わざわざここへ来るかな。人が忘れようとしているのに)
オレは少々自虐的な笑みを浮かべ、煤けた服を払った───。
行動しないのはオレらしくない。
宿屋にすぐ戻って、ゼシカの部屋に行く。
が、らしくもなく扉を叩くのを躊躇した。
「誰かいるの?」
足音を忍ばせたつもりだったが、ゼシカにはどうやらバレバレだったらしい。
オレだ、と短く告げる。
ゼシカの承諾を得て、オレは彼女の部屋に入った。
甘く、強いアルコールの香りがする。
「飲んでいたのか?」
「そうよ。悪い?」
「いいや」
オレはちらっと銘柄を見る。
それは相当アルコールの強いやつだった。
「飲み過ぎじゃないのかな、ゼシカちゃん」
「そんなことないわよ」
どっから見ても飲み過ぎだった。
「まぁ、いいや。ちょっとオレも混ぜてもらおうかな」
オレは適当に酒を注ぎ、ゼシカの座っている隣に腰を下ろす。
「なぁ、ゼシカ。さっきはごめんな」
何言ってるんだろう、オレ。
酒場と今ここで飲んでいるアルコールがオレを素直にしているのか?
ってか、こういうのを酒に飲まれているっていうんだよな…。
第一、信用のないオレのことだ。ゼシカはきっと許してはくれないだろう。
などと、色んな想いが頭を過った。
「………………」
案の定、ゼシカは反応しない。
「じゃあ、ゼシカの好きにしていい。何でも1つだけ叶えてやるから」
ゼシカはオレの袖をそっと引っ張る。
「私も………したい」
あまりに小さな声だった為に、それはオレの耳に届く前に霧散した。
「私もっ………あのゲームが、したいのっ!」
今度はもっと大きな声。
「あのゲーム………ってポッキーゲームか?」
俯きながら無言でこくっと頷く。
まさかゼシカがそんなことを要求してくるとは思わなかったオレは正直、驚いた。
無論、本望ではあるのだが。
数分後───。
オレは買ってきたポッキーを開けて中身を取り出す。
「本当にいいのか?」
「うん………」
オレはその中の1本を取るとゼシカに咥えさせ、彼女を抱きかかえた。
次に手袋を取り、ゼシカの頬を両手でそっと包む。
そして、逆側をオレは咥えた。
ゼシカは目を瞑ったまま微動だにしない。
オレ達の距離が僅かになったところで、オレは止めた。
本当にこのまま、ヤッちまっていいのか…?
そんなことをずっと考えていると、ゼシカはオレの外套を両手で引っ張る。
意を決して更に距離を縮めた。
ゼシカの艶やかな唇にオレのが重なる。
ほんの、一瞬だけ。
「ほら…これでいいだろ」
敢えて一瞬なのは、本当にゼシカを好きな故。
好きだからこそ、遊び歩いて何人もの女と寝て過ごしてきたオレが触れるなんて出来ない。
「初めてを奪われちゃったわ。この責任はきちんととってもらうからねっ!」
「なっ………どうしろと」
「今晩、ずっと側に………いて」
いつもの勝ち気なお嬢様ではなく、年相応の恥じらった声。そして…熱い視線。
オレは返事の代わりにゼシカを抱き締めた───。
後書き
ゼシカちゃん、嫉妬してメラゾーマ。ヤケ酒におねだりと凄い有り様です(笑)うちのククはあまりヘタレではありませんね。むしろ、繊細? 実はククールsideで書くのは初めてなんですよ(-。−;) 読んで下さってありがとうございました!