ラプソーンを倒し、あれから2年…。エイトとミーティア姫が結婚したのに続き、ククールと私も結婚した。この2年間でククールはドニの町の周辺を整備して、領主となった───。
「ん…」
すーすー寝息を立てて眠っている彼。きっと…昨日のが堪えたのね。
私はそっと彼の銀髪を手で梳かした。うふ…可愛い寝顔だわ。
その寝顔が普段とは違ってあまりに無防備でついつい触れたくなって…。
気付いたら私はククールにキスをしていた。
「…んっ」
やだ…私。自分からこんなこと…///
「ゼシカ…朝から不意打ちとは随分やるじゃねーか。昨日の熱い熱い夜が忘れられないのか?」
目を覚ました銀髪の髪の持ち主が私の耳許で囁く。
「ち…違うわよっ!///」
「へぇ…じゃあ確かめてみるか?」
言うや否や、彼の手は私の身体を軽く撫で上げた。
「きゃっ…」
ククールの手の動きに思わず私は声を上げてしまった。
「ほらみろ。やっぱりそうじゃんか」
「だって、ククールがそんな事するから…っ///」
「ついでに朝からでもオレは全然構わないんだけどな…あいてててててっ!」
私はククールの頬を引っ張った。美形の顔に傷が付こうが気にするもんですか!
「今日はトロデーンの記念式典に参加するんでしょ! 忘れたの!?」
「わ、分かってるって…冗談だっつーの」
今日はトロデーンの誕生記念式典に参加する事になっている。エイト達に逢うのは久々の事で、私は兼ねてから楽しみにしていた。
「ちぇ…堅苦しい式典なんかゴメンだぜ…」
横でククールがぼやきつつ、ベットからそもそと這い出た。
式典は夜に行われる事になっていた。ククールと私が城に着くと、すぐにエイトとミーティア姫が出迎えてくれて部屋まで案内してくれた。
「ねぇ…ククール。どのドレスを着ようかしら?」
数十着はある衣装部屋のドレスを眺めながら私はククールに尋ねた。聞けば、ミーティア姫がわざわざ私の為に全部用意してくれたものらしい。
「白…あぁ、でもこっちかな。ゼシカには紅がよく似合うからな」
彼が選んだのはルビーを連想させるような深紅のドレスだった。
「深紅は際立つから着こなすのが難しい。でもゼシカなら問題無いだろうし。…それで後で1曲相手してもらおうか」
「…馬鹿///」
ククールに着付けてもらって私は改めて鏡の前の立った。うわぁ…このドレス、とてもきらびやかだわ。
ちょっとだけ、私には勿体無いような気さえしてくる…そんなドレスだった。
「赤銅色の髪と揃って一段と綺麗だな、ゼシカ」
「ぁ…」
後ろから抱き竦められて私は惚けてしまった。だって…鏡に映る私達はまるで…物語の中の騎士とお姫様みたいだったから………。
式中のダンスではいの1番に声を掛けてきた。
パーティーで前にもククールと踊った事がある。あの時は…まだ、こんな関係じゃなかったけど…。
私は昔に想いを馳せた。何でも卒なくこなしちゃって…ダンスもリードするのが上手いし、これなら女性陣が毎度毎度きゃーきゃー言ってもおかしくないわよね…今更だけど。
現にククールは私と踊り終わった後、何人もの女性に声を掛けられていた。私も、何人か声を掛けられたけど…何だかそんな気分じゃなかったから断ろうとして…。
「どうしたの、ゼシカ? あっちで少し休憩する?」
「エ…エイト!? こ、こんなところにいていいの?」
私が驚いて問い詰めると彼はうん、とにっこり頷いた。
「お酒がいい? それともジュースの方がいい?」
エイトに聞かれて私はジュースを貰う事にした。いくらかつての仲間とは言え、将来的には一国の王様になる彼がこんなに気さくでいいのかしら? と、ちょっと疑問に思う。まぁ、そこがエイトのいいところなんだけど。
「ククールと上手く行ってないの?」
「…そんな事は無いけど…」
あれ…私、どうしてしどろもどろになっているの?
「ゼシカが気にしてる事かどうか分からないけど、ククールはゼシカ以外の人とは踊らなかったみたいだね。部屋で休むって言ってたよ。もし良かったら僕が見て来ようか?」
「エイト…いいの? お城の───」
「大丈夫。今は丁度暇だからさ」
エイトは私の言葉を遮ってこう言った。
私は部屋に戻る前に少し化粧室へ寄った。会場が暑かったせいもあって、きっと化粧が崩れていると思ったから。
鏡とのにらめっこを終わらせ、部屋に戻ろうとした時、不意にククールとエイトの会話が聞こえた。
「エイト…オレ、まだやらなきゃいけない事があるんだ…」
「マルチェロの事?」
「ああ。でも、ゼシカが…」
暫く聞かなかったククールの苦悩する声。
そうね…マルチェロを捜しに行くのに、私は…邪魔になるものね。
私は部屋を後にした───。
式典が終わって、ドニの屋敷に戻ってきた。そこで、ククールの執務室を掃除していた時、私は机の下に旅の荷物が支度されてしまってあるのを見つけた。
ククールは…どうしたいんだろう…。
零れる涙はきっと誇りが目に入ったからだわ。
自分に言い訳をしながら部屋に戻った。けれど、涙は溢れるばかり。
ククールを独り占めしたい、そんな気持ちが私の心の中にはある。そんな自分が嫌で嫌で仕方無かった。
私はきっと窓の外を見上げた。
そうね…好きなら行かせてあげなきゃ…いけないわね。
涙を拭いて、意を決したようにククールのところへと向かった。
「ククール」
「どうした、ゼシカ?」
俯きそうになるのは涙を堪えてるから。でも、それだとククールが躊躇ってしまうかもしれない。
私は真っ直ぐククールの目を見た。
「ねぇ…ククールやりたい事があるんでしょ?」
「やりたい…? ゼシカとならいつでも歓迎だぜ?」
「ち、違うわよ! そうじゃなくて!///」
どうしていつもこうなのかしら…ククールは。
半ば呆れ返ってしまう。
…いけない、話が脱線してる。
「マルチェロの事。捜しに行きたいんでしょ…?」
「でも、ゼシカが…」
「…自意識過剰」
ぼそっと私は呟いた。たじろぐククールを見てくすっと笑う。
「私の事は気にしないで…行ってきて」
私は執務室にあった道具一式をククールに渡した。
「ゼシカ…」
気付いたらククールに抱き竦められていた。
「オレ…ホント、中途半端でカッコ悪ぃよな。ごめん…」
お願いだからそんな事言わないで。
私は泣きそうになるのをぐっと堪える。
「ゼシカ。すまない。絶対、絶対…ここへ戻ってくるから」
どうして一緒に行くって言えないんだろ…私。
ううん、私は待っていなくちゃ。ここが…ククールの帰ってくる場所だって。
「ゼシカ…。行ってくる」
ククールは抱擁を解くと、ゆっくりと顔を近付けて私にキスをした。
いつもと違う、ほんの一瞬触れるだけのキス。
とても、切なかった。
とても、引き止めたかった。
でも…。
私は最後まで涙を流さなかった。
きっと、帰ってきてくれる…。私…そう、信じてるから。
午後の温かい日差しが窓から注ぎ込む中、私はククールの後ろ姿を見送った───。
後書き
前にもマルチェロ捜しの旅に出るククールを見送るゼシカというシチュで書いた事があるんですけど、あの時はまだ正式に認められた恋人ですらなかったわけで。今回は夫婦という事にしたので、ゼシカも前に書いた時よりは大人になるように心掛けたつもりです。
プロット※要反転
ゼシカ1人称。
エンディング後。ゼシカはドニの領主となったククールのところへと嫁ぐ。
朝方。目が覚めたゼシカは横に寝ていたククールを見遣り、そっと口付け。ククールは最初、寝ていたが、ゼシカの不意打ちで目が覚める。
ククール「ゼシカ…朝から不意打ちとは随分やるじゃねーか。昨日の熱い熱い夜が忘れられないのか?」
耳許で囁くククール。同時にゼシカの身体に触れる。
ゼシカ「ち…違うわよっ!///」
可愛い声を上げちゃうゼシカちゃん(笑)
トロデーン誕生記念式典を行う事に。2人はトロデーンへ。
ゼシカはククールとエイトがマルチェロについて話しているのを立ち聞きしてしまう。
苦悩しつつ、ゼシカはククールを送り出す事に。ククール、ゼシカに切ないキスを。