第1話 君を探す旅へ

 アレルは苦難の末、大魔王ゾーマを討ち滅ぼした。

 そしてラダトーム城へと凱旋という時、仲間の魔法使い───リザが行方を暗ます。
 クリスの話によれば、リザはアレルのことを想い、また自分に流れる血の宿命のためにパーティを離れたのだ、という。

 アレルは城に戻った後、1人で旅をすることを決意する。
 最愛の、リザを探す旅へ───。


 まずはマイラの村よりも更に北の最果ての村───ハルムへとアレルは足を運んだ。この村には有名な占い師がいると、ラダトームの街で以前聞いたことがあったからである。
 その占い師は『古き善き魔女』の二つ名を持ち、捜せぬ物は何もない、といわれる程であるらしい。
「あの、『古き善き魔女』と呼ばれる占い師を探しているんですけど」
「ああ、ベガ=グレイスのことね。彼女は宿屋の北側の家に住んでいるわ」
 村の入り口に立っていた女性から例の占い師の居場所を聞くと、長旅で疲れているにも関わらず宿屋へ行くのを後回しにし、その場所へと向かった。
「ベガにあたし、彼氏のことを占ってもらおうかなぁ〜〜」
「彼女の占いは外れないっていうわ。悪い結果が出たら怖いじゃない」
 井戸の側で年頃の女性達がおしゃべりをしている。このことからするとベガ=グレイスは相当腕利きの占い師らしい。
(僕の探しているリザの居場所も分かるだろうか?)
 アレルは宿屋の北側に回った。ベガ=グレイスの家の前には『古き善き魔女の占いの館』と書かれた立て札があった。
「すみません、あの───」
「貴方がアレルね」
「えっ?」
 アレルは驚いた。この村に来てから自分の名を名乗っては、いなかった。
「偉大なるロトの勇者、私のところへ来たのは人探しね。それも、貴方のとても大切な人の───」
「そこまで分かるんですかっ!?」
 アレルは身を乗り出して尋ねた。これは本当に当たるかもしれない、そう思ったからだ。
「ええ。彼女の名前は───。まぁ、ここで立ち話するのもあれだから、中へどうぞ」
 ベガに進められるままに、アレルは奥の部屋へと足を運んだ。
 奥の部屋はいかにも占いをするための部屋───大きな水晶玉や紫の布、派手な柄の絨毯がある───だった。
「さぁ、そこに座って。そうしてよーくこの水晶を見て」
 アレルは水晶玉を覗いた。だが、アレルの目には何も映らなかった。
「………………」
「そろそろ、分かるわ………」
 ベガが示す通り、それまで何の変化もなかった水晶玉が7色に輝いた。
「これは………」
「そうね、貴方は近いうちに貴方の探している魔法使いの少女───リザに逢うわ………再び。でも、そこには………新たな試練が待ち受けている」
 もはや単なる占いではなかった。彼女の言葉───それは予言だった。
「新たな試練………?」
「そう、きっと貴方はその試練の中で何かを見出せるはずだわ」
 とにかく、今は少しでも早くリザに逢いたかった。
「お代は………」
「いいわ。貴方がここを訪ねて来るのは前から分かっていたの。前にルビス様の神託が、あったのよ。ロトの血脈が訪ねて来たら力になってあげなさい、とね」
「ルビス様が………?」
「そう、貴方は護られている。たとえルビスの守りをラダトーム城に置いてきたとしても」
 確かにアレルはルビスの守りとあの時身につけていた防具を全てラダトーム城に置いてきた。例外として身につけているのは父───オルテガも使用していたこの王者の剣だけだ。
「今の私に分かるのはここまで。何かつまずいたらまた私のところへ来るといいわ。それから───」
 ベガはアレルの手を取ると、液体の入った小瓶を手渡した。
「これは『世界樹の雫』と呼ばれる代物よ。私は占い師だけでなく薬師もやっているんだけど、その薬は強力だから、いざという時に使ってみて」
「ありがとう」
「気をつけて………。貴方にルビス様の御加護があらんことを」


(リザは………僕の近くにいるのだろうか?)
 宿屋のベットの中で、ふとアレルは思った。
(リザ、君を絶対に探し出す。どんなことがあっても………)
 アレルはかつてリザと一緒に旅をしたことに思いを馳せながら静かに微睡んで(まどろんで)いった───。

後書き

 ─After the Legend─、いよいよ始動。これは前々から書きたいと思っていたアレルとリザのその後の物語です。そしてロトの血脈を巡る新たなる戦いの幕開けでもあります。今回は割とすんなり書けました。次回からきっとお話が動いていく………はず。

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