第6話 運命〜Destiny〜(2)

「作戦開始よ! 頑張ってね!!」
「ブラスト機動確認! 黒獅子アスム、出撃するぜっ!」
「こちら、黒神アキ! わたくしも参りますわ!」
「死神タナトス、出撃する!」
 3人の仲間の、思い思いの声が響く。
 それに続くように、ヴァルキリーも口を開いた。
 まるで、それは仲間を鼓舞するかのように。
「戦乙女ヴァルキリー、出撃します! みんな、頑張りましょう!!」
 彼女は通常通り支援兵装で出撃した。
 序盤はこの方が呂布を探しやすいと考えての事なのだろう。
(確実に遭遇するとは言い切れない…でも、来る気がする…!)
 妙な直感だった。
 だが、彼女の勘は鋭く、咄嗟の機転も利く。
 敵にしてみれば厄介な指揮官であった───。




「遠雷の軌道!? …いたわ! 橋の上!!」
「わたくしも同行致しますわ!」
 ヴァルキリーは紅い狙撃兵装を発見し、アキと共にその場へ向かおうとした。
 だが、彼は彼女が発見するよりも前に気付いていたようだ。
 威嚇とも取れる一撃がヴァルキリーを襲う。
「くっ! やはりあなたはそうでないと!」
 一瞬で見切り、レバーを逆に入れる事で遠雷の弾を躱す。
(E.D.G.βの腕…あれを使っているなら、リロード速度はほぼ最速。遠雷の標準リロード時間と併せると大体間隔は3秒ってところかしら?)
 一定のペースでブーストを使いつつ、接近を試みる。
 しかし…。
「プラントBに敵の強襲型が…! か、囲まれた!?」
 その数5機。
 シュライク型とE.D.G.型、そしてそれらの混合型だった。
 数だけでも問題だが、相手はみな高機動型───重量級寄りの機体パーツで組んでいるヴァルキリーやアキは当然スピードで翻弄される事になる。
「しまっ───!」
 普段ならやらないはずのミス。
 彼女はブーストゲージを極限まで消費してしまったのである。
 その一瞬を呂布は決して見逃さなかった。
「これで終わりだ、紅い支援乗り!」
 彼が放つ遠雷が火を噴く。
 正しく、絶体絶命だった。


「隊長、危ないですわっ!!」
「───!!」

 ガキンッ!

 言葉と共に、デュエルソードが放物線を描いて煌めく。
 それはアキが放ったものだった。
 そして、その剣と遠雷の劣化ウラン弾とがぶつかり、激しく火花を散らす。
 アキのデュエルソードはそのまま勢いを失わず、遥か遠くに突き刺さった。
 間一髪、軌道を逸らす事に成功したのである。
 それは、呂布の射撃が正確過ぎるが故に成功した技だった。
「隊長、ここはわたくしに任せて行って下さいまし!」
「アキ…! 分かったわ!」
 ヴァルキリーは短く返事をし、その場を後にする。
 無論、追撃しようとする敵はいた。
 しかし、アキが行かせない、とばかりに奮闘するので、何とか彼女は離脱出来たのだった。
「…隊長を行かせられれば、上出来ですわ」
 M99サーペントとグレネードランチャーを使い、彼女は孤軍奮闘する。
 しかしアキは補助武器が使えない為、圧倒的に不利だった。
「きゃあっ! まだ、負けられませんのよ…っ! ここで、わたくしが足止めをしなくては…!!」
「アキっ! これを使え!!」
「!!」
 斜めやや後方からタナトスが剣を投げ付ける。
 どうやら、敵の強襲兵装から奪ったらしい。
「マーシャルソードだ! デュエルソードより刃渡りは長いから、それを計算に入れて振るえ! お前なら、必ず出来る!」
「りょ、了解ですわ!」
 アキはマーシャルソードを手に、敵の強襲兵装と対峙する。
 相手もまた剣を手にしていた。
 突っ込んで来る敵が振るうデュエルソードの軌道に合わせ、それを弾く。
 そして、返す太刀で1機撃墜した。
「次ですわ!」
 アキのマーシャルソードが躍り、2機を巻き込んだ。
 しかし、行動不能までわずかに足りず、隙が出来てしまう。
「───!」
「俺がちゃんとフォローしてやる! いいから、そのままやれ!」
「わ、分かりましたわ!」
 アキの隙をタナトスがヴォルペ突撃銃FAMで埋める。
 数の上では負けていたが、気持ちの上では決して2人は負けなかった───。




(逃げられた!? いいえ、狙撃ポイントを移しただけのはず…まさか、滝の辺り?)
 ヴァルキリーは注意深く周囲を窺う。
 そして、偵察機を飛ばそうと、岩場に身を隠した。
 無論、横から狙われないよう、細心の注意を払いながら。
(レーダーに反応が…! 予想通り、そこね!!)
 紅い軌跡が砂埃の中に残る。

 待ってて、今行くから───。

 そう、彼女は独りごち、紅のブラストを駆る。

「やはり来るか、紅い支援乗り…!」
 呂布はすぐにスコープを覗いた。
 狙うはその頭。
 一撃で追い込まなければ、持久戦になった時に不利になる。
 しかし…。
「…外しただと?」
 自らの腕を過信しているわけではない。
 だが、何故かその弾は僅かに逸れた。

「…っ! 完全に躱せなかった!」
 トレードマークとも言える、紅い翼に遠雷の弾が当たり、僅かによろける。
 それをヴァルキリーは巧みな操作でカバーし、追撃を許さずに滝を上がっていく。
 水場に映える彼女の紅い機体は神々しささえ纏うように見えた。
 その様を見て呂布は不思議と心地良いとすら感じる。
(フッ…敵同士、なのに…な)
 その想いをはっきりと自覚し、自虐的に哂った。
 そして、再び遠雷を構える。
 今度はスコープを覗かなかった。
 近距離で狙撃兵装と支援兵装が差しで勝負した場合、狙撃が圧倒的に不利であるにもかかわらず、だ。

「来い。撃ち抜いてやる…!」
「私が必ずあなたを倒すわ!」
 交錯する二筋の弾道。
 それは互いの紅い機体に傷痕を残す。
「もう一撃っ!」
 更に、ヴァルキリーが踏み込む。
「…甘いな」
 それを予期していたかのように呂布はジャンプマインSを投げ、自身は後方へと下がった。
 彼女もまたそれに気付き、慌ててバックジャンプで躱す。
 ギリギリ効果範囲内にいた為、多少ダメージを受けたものの、元々彼女の機体はケーファー中心に組んでいる為、致命傷にはならない。
 だが…。
「くっ…嵌められた!!」
「俺の本当の狙いはこの距離だ」
 冷静にスコープを覗き、移動を完全に読んだその一撃がヴァルキリーを襲う。
(体勢を立て直さなければ…!)
 ノックバックした機体の制御をする為、彼女は即座にレバーを切り返した。
「追撃なんて、私がさせると思って?」
 彼女は口の端を吊り上げて嗤った。
 ブーストとジャンプを上手く使い分け、追撃を躱す。
 そして同時に、リペアユニットβを展開させ、機体にニュード粒子を吹き掛ける事で破損箇所を直していく。
「この紅い支援乗り…なかなかに手強い。そして…どこか運命を感じさせる相手だな」
 呂布もまた不敵に微笑む。
 両者共にそれは、戦闘を悦しんでいる表情だった。

 ───狂っている。

 まさに、そう表現出来るだろう。
 記憶が無い呂布はともかく、恋人を自らの手で殺すかもしれないと言うのに、ヴァルキリーは薄ら笑いを浮かべているのである。
 無論、彼と戦わざるを得ないと知った時、胸を抉られる(えぐられる)ような哀しみに襲われたのは紛れも無い事実だ。
 だが、その一方で軍神と謳われた彼に、どこまで自分の力が通用するのか挑んでみたい、という気持ちもあった。
 それは、かつての憎悪ではなく、純粋な憧憬(どうけい)の裏返しだった。


「身軽なその動きを、封じる!」
 ヘヴィマインVを呂布が陣取っている辺り目掛けてばら撒き、更にワイドスマックに持ち替える。
「そうか…こちらの自由を奪う気だな」
 設置された場所を把握しながら呂布もまた前へと出る。
 それは、本来の狙撃兵装とは明らかに異なる戦法であり、また彼にとって真のスタイルでもあった。
「ならば…」
「いいわ…」
 声が重なるような感覚に襲われる。
 どちらが速いか…ただ、それだけを懸けて。

『これで決める!!』

 軍神の遠雷が近距離で唸りを上げ、戦乙女のワイドスマックが火を噴く。
 それはお互いが外す事の無い距離であったが故に、致命的なダメージになりかねない一撃だった。
 だが…。
「この揺れは…一体!?」
「崩落…か。チッ、水を差されたな…」
 両軍の重火力兵装の榴弾砲とエアバスターが橋上で炸裂し、激しい揺れが発生した。
 直ぐさま、呂布は踵(きびす)を返す。
「ヴァルキリー、応答して! たった今、両軍の間で緊急の休戦協定が結ばれたわ! 隊を纏めてすぐに避難して!」
「ヒルダ!? でも…!」
 渋るヴァルキリー。
 あと少しで決着が着くと言う時に…! と、彼女は苛立ちを隠せない。
「状況は把握しているわ…でも、今戦場でそれが出来るのはあなただけだと言う事を忘れないでちょうだい!」
「…分かったわ」
 崩れゆく地の反対側、土砂の巻き起こるその向こうに消える紅い狙撃使いを背に、破損し掛かった機体を引き摺ってヴァルキリーその場を後にした───。

後書き

 前半はタナトス&アキのコンビネーション、後半はヴァルキリーVS呂布の一騎打ちと、個人的には緊迫感のある戦闘シーンが書けたと思います。

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