俺は例によってファリスの私室のバルコニーから侵入したのだが。
(何だ、寝てるのかよ………)
無防備なファリスが、そこにはいた。
旅をしていた頃の彼女だったら考えられないことだ。まぁ、それだけ世の中が平和ってことなんだろうけど。
「う………ん、誰かそこに………いるの?」
それでもやっぱりファリスはファリスだ。すぐに俺の気を察知した。
「よぉ、ファリス」
「バッツ!??」
がばっ、とベッドから飛び起きるファリス。
驚きのあまり声も出ない、という感じに見える。
「どうしてまた、お前はそんなにも唐突なんだよ………」
ファリスは「また」の部分を強調して言った。
確かに唐突なのはいつものことだ。でも、決して行き当たりばったりではない。
「俺さ、やっと決心がついたから、さ」
「はぁ? 何言ってんだ??」
決心というのはもちろん………。
「お前をさらって行くことだ」
「なっ!」
俺はあっさりと言ってのけた。ファリスは絶句している。
「あのなぁ、バッツ。そうは言っても………レナや城のことだってあるし───」
「そんなことはどうだっていい」
俺はファリスの言葉を一刀両断にした。
その真剣さを見てか、思わずファリスは後ずさる。
「ファリスは行きたくないのか?」
「オレは………行けないよ。凄く嬉しいけど、さ」
「そうか………」
がっかりなどはしていない。ファリスがこう言うことも計算済みだからだ。
口許にはとんでもない悪戯を思いついたガキのような笑み。
俺はファリスを壁際に追い詰める。
「じゃあ、無理矢理にでも連れて行くさ」
俺はファリスの両手を反撃を食らう前に拘束し、壁に押さえ付けた。
「なっ、バッツ!」
ファリスの悲痛な声が激情に身を任せつつある俺をさらに激しく駆り立てる。
「バッツ、止めろッ!」
「海賊の頭、ファリス=シェルヴィッツだったらこれぐらいの拘束、難無く抜けられるよな?」
ファリスの瞳だけを見ながら俺は彼女のプライドを刺激する台詞を吐いた。
「今日のお前、らしくないぞ………」
息を荒げたファリスが精一杯の抵抗を示す。
が、それぐらいで封じた両腕を解放することなどできない。
「俺らしくない? じゃあ、どんなところが………俺らしいんだ? 言ってみろよ」
耳許で俺はゆっくりと囁いた。
「それは………」
ファリスは口籠った(くちごもった)。
「ほぅら、言えないだろ。………それとも俺がこんな行動に出るとは思わなかったか」
ファリスの白く透き通った首筋を俺は慈しむように啄む。
「くっ………」
「俺らしくないって、こういう行為をすること、か?」
乱暴にファリスの唇を奪い、舌を絡めて深く、角度をつける。
それを、ファリスは必死に堪えていた。
「我慢しないで、楽になればいいだろ………」
「いや、だっ………」
強がりを言うファリスを少しずつ悦びに浸らせる感覚に俺は強い快感を覚える。
耳朶に熱く火照った舌を這わせると、ファリスは小刻みに震えた。
征服欲という名の、黒い感情が俺を支配して、俺自身にも歯止めが利かなくなってしまいそうだった。
「………………………………好きにしろよ」
隙をついてファリスは、そう言った。
その顔は諦めというより、むしろ哀れみという顔だった。
「ファリス………………」
「好きにすればいい」
至極、平然とした声音でファリスは言った。
「………………………ごめん」
俺は、危うく取り返しのつかないことをするところだった。
正気に戻った俺はすぐに押さえ付けていたファリスの手を解放した。
「そういう時もあるさ、気にするな」
あれだけのことをしたというのに、ファリスはそれをたった一言で片付けてしまった。
「俺、どうかしていたな………今日のことは忘れてくれ」
そう言って、元来たバルコニーへと戻ろうとした時。
「あのさ、バッツ………。必ず、お前のところに行くから。だから………それまで待っててくれよ。絶対にお前のところに行くから、さ」
俺はただ返事をした。
その日が来ることは絶対にない、と知りながらも───。
後書き
うっわ〜! 暗い! 黒い! ヤバい!! 何だかもう、一歩間違えると大変なことになりかねないなぁ………( ̄ー ̄; ヒヤリ バッツが無理矢理な行動に出たのは勿論ファリスを愛するが故です。あまりに愛が深いから狂ったような行為をしようとしたのでしょう。………なんて、正当化してみたり。実は単なるFairyの脳内妄想が文になっただけなんだけどね(ぉぃ)