「バッツ、しっかりしろっ!」
ファリスの声が、遠くに聞こえた。
俺は起き上がろうとしたが、できなかった………。
「おい! 今、回復魔法かけてやるからな」
戦闘が終わった直後のことだった。先程倒したモンスターに遅効性の毒を受けていたらしい。俺は急に目眩に襲われて………。
気がつくと。
俺は、リックスにいた。
それも、昔の俺として。
『おとうさん………。おかあさんは………』
『バッツ………母さんは、ステラにはもう………』
親父の声が頭にリフレインした。
嫌という程に。
(止めろっ! 俺はこんなことを、望んでなんか………)
『………………おかあさんっ!』
幼い俺の言葉に、俺の悲痛な叫びは全て………掻き消された。
そして、物事の分別がつくようになった後の俺は再び出会う。
逃れられない、絶望に………。
『………………親父』
『バッツ。俺はもう、長くない………。いいか? 世界中を旅して見て回れ』
『親父!』
忘れるはずもない、親父の最後の台詞。
『俺が………死んだら………………ステラの、隣に埋めてくれ』
(くっ! 何で俺は、また………)
親父は病によって、永遠の眠りについた。
その時の俺は親父の死を受け入れられなかった。
そして、1番目を背けたかった惨劇。
『リックスが………………………うわあぁぁぁ!』
心を蝕む黒い感情が、俺の身体を駆け巡った。
今でも、はっきりと覚えている、絶望よりも重く、暗いもの。
まるで魔物であるかのような、だ。
『バッツ、止せっ!』
(止めてくれ、お願いだから!)
止めろぉぉぉっ!!!
「………………………はぁ、はぁっ」
カッと目を見開いた。
「バッツ!! 大丈夫かっ!?」
「………………ファリス?」
俺は、焦点の定まらない目でファリスの方を見た。
「お前、随分と魘されて(うなされて)たぜ。まだ、どこか調子よくないのか?」
「………………」
俺は黙った。見たくもない過去を心の中にダイレクトに突き付けられたような、悪夢よりも酷い夢を振り返ってしまったからだ。
「別に、何があったかは聞かない。ただ───」
ファリスはベットの上で身を起こした俺を静かに抱き寄せ、耳元で続きを囁く。
「バッツが辛いのは、嫌だ。………だからさ、そんなに1人で無理して抱え込むな、よ………」
ファリスが目を潤ませて訴える。
俺はファリスのそんな健気な気遣いが好きだった。
「ああ………………そうだな。それに、俺達は泣き言なんか言ってる暇なんてないしな」
忘れていたこと。それは………今はファリスがいる、ということ。
ファリスがいるから俺は、もっともっと強くなれる。
「バッツ………」
「サンキュ………ファリス」
そう言って俺は小さく笑った───。
後書き
悪夢に魘されたバッツのお話。FF5では色々な人々の死際が物語を儚く、そして美しく、また壮大にしていっています。その中でもバッツに関わる負の部分を『悪夢』という形で書き集めてみました。バッツがファリスを慰めるシーンってのは上手いこと台詞が思いつくのに、その逆はてんで駄目(>▽<;; アセアセ ここ最近、甘い系ばかりだったので、少し切ない系に仕上げてみました。それにしてもレナとガラフorクルルはどこにいるんだか………( ̄ー ̄; ヒヤリ