兄弟。
肉親同士の争いなんて、私には分からなかった。
でも………。
「………………」
ククールはいつになく揺らいだ瞳で、兄マルチェロの去って行く姿を追っていた。
憂い、不安、淋しさ………そんな想いを募らせているかのような瞳を、私は忘れられなかった。
それから数カ月後。
私達はレティスと共にラプソーンとの最終決戦に臨んだ。
もしかしたら、2度と帰って来れなくなるかもしれない。
そんな私にククールはこう言った。
「絶対にオレが守るから。何があっても」
いつもの気障な台詞なのに、彼はとっても真剣な目をしていて。
私はその気持ちに素直にありがとう、って答えた。
そして、更に時が過ぎ───。
エイトとミ−ティア姫を見送った私達。
ヤンガスは1度故郷のパルミドに向かうと言ってキメラの翼を放り投げた。
「さて、オレ達も帰るとするか」
ククールは左手を天に翳そう(かざそう)とした。
彼のその動作は間違いなくルーラ。
旅の間何度も私達がお世話になった呪文だ。
でも………。
リーザスに着いてしまったらククールとは………。
「待って!」
思わず声に出していた。
「歩いて…帰ろう」
私、淋し気な顔をしていたのかもしれない。
けれど、ククールは笑顔でいいぜ、って答えた。
世界が平和になったことで、主な大陸や島との定期船が出るようになったので私達はそれを利用して帰った。
途中、今まで旅をしてきた場所にもたくさん立ち寄った。
2人きりで野宿をしたこともあった。
でも、遂に私の故郷───リ−ザス村に着いてしまった。
「ねぇ、ククール。私の家においでよ。泊まって行って」
「そんなに甘えちゃってどうしたのかな、ゼシカちゃん」
「嫌なら、別にいいわよ」
私はぷいっ、っとそっぽを向く。
………本当はもっとククールと一緒にいたいのに。
「嫌なわけないだろ」
耳許で甘く囁かれたせいで、私は赤面してしまった。
その日の夜───。
久々に自分の部屋に帰ってきた私はベッドに寝そべった。
けれど、何故か落ち着かない。
(ククール…まだ、起きているかしら?)
トントンっ。
私は客室の一部屋をノックし、自分だと伝えた。
「入れよ」
「うん」
薄く机の上に灯っている明かり。
「何をしていたの?」
「ああ、これか? ちょっと目星を付けていたんだ」
世界地図………。
彼がマルチェロを探すつもりだというのは言われなくてもはっきりと分かった。
ククールがどんな想いで兄を見ていたのかは私には分からないけど…。
でも、やっぱり絆は深いのかな。私とサーベルト兄さんの様に。
「何か、今日のゼシカ。少し浮ついているな。どうしたんだよ」
「そう? そんなつもりは、ないんだけど…」
きゃっ。
私は小さく悲鳴を上げた。
ククールが私の身体を抱き締めたからだ。
「嘘付くなよ。瞳が揺らいでいるぜ」
「本当に何でもない…から」
この心地よさも、明日には消えてしまう。
「ただ………」
「ただ?」
ククールが聞き返してくる。
「ちょっとだけ、一緒にいても…いいかな」
「ああ…もちろん」
私を抱えたまま、ククールはベッドへと倒れ込む。
ほのかに映る私達の影が、重なっていった───。
翌日。
ククールの部屋でそのまま寝てしまった私が気が付くと。
そこに、彼の姿はなかった。
私が、慌てて外に出ると彼はすっかり身なりを整えていて。
「おはよう、ゼシカ」
「ククール…」
(行ってしまうの…? もっと、一緒にいたいよ)
「じゃあ…行ってくる。元気でな」
ククールは私に背を向けた。
行ってしまう。
何か言わなきゃ、そう思うよりももっと早く。
私はククールに抱きついていた。
一瞬、ククールが身を固く強張らせた。
「お願い…行かないで」
「ゼシカ…」
「嫌だ、行かないでよ………」
大粒の涙が零れた。
ずっと我慢していた気持ちが、堰を切って溢れ出した。
「泣くなよ、レディ。美しい顔が台無しだぜ」
私の拘束を軽く振り解き、ククールは反転する。
「やることが終わったら、必ず戻ってくるから」
ぽん、と私の頭の上に手を乗せる。
「浮気したら…承知しないんだから!」
こんな時まで憎まれ口を叩く私。
でも、ククールはそれを気にする様子もなく。
「ちぇ…信用ねぇな」
そんな風にわざと肩を竦めて(すくめて)みせた。
「ほら、目瞑ってみろよ」
ククールがそう促すので、私はその通りにしてみた。
私の左腕がそっと掴まれる。
「これは………?」
「帰ってきたら、御母様と正式に話を付けるから」
金色に光る、指輪がそこにはあった。
「うん…ありがとう、ククール」
私は嬉しくて、もう1度彼に抱きついた。
「好きだ…ゼシカ」
「私もよ、ククール」
私達は朝焼けの空の下、静かに口付けを交わした───。
後書き
とてもククゼシが書きたくなって、書いてしまいました。マルを探す旅に出るククをゼシカが引き止めるという設定、いやぁ、予想以上にツボでした。しかも今回のゼシカはとっても女の子っぽい。何か、可愛くていいなぁ、こういう恋って。羨ましい………(ぇ?)
追記
ちなみにこのお話の元になったイラストがありまして。はぎり様のサイト「裏日本茶同好会」のものなんですけど。(偶然にもタイトルが同じでした)「誰か話書いてくれないかな」と書いてあったのと、はぎり様の素晴らしいイラストに感化されて書いてしまったというわけです。お題元にはお題を元にした作品の再配布は認めるという記述があったので、お題小説ですがはぎり様に捧げましたw