73 憎い程に

 それは夜の戦闘で起こった。昼と夜とでは魔物との遭遇率が異なる事ぐらい知ってた。でも、夜が…こんなにも魔物を狂暴化させるなんて…。
 私達は崖に追い詰められた状態で戦った。けれど、あまりに数が多くて…。
 呪文で一気に決めてしまおうとしても長く掛かる詠唱は中々効果に結び付かない。エイトやヤンガスが敵を引き付けてくれてる。それなのに私は…焦るばかり。
「はっ…ゼシカ!」
「…ぇ?」
 後ろに魔物がいた事に気付くのが遅過ぎた。私はろくにガードも出来ずに攻撃を受けてしまう。
 そして、その一撃が致命傷となる事は必至だった。足を滑らせた私は崖から落ちていく。
「ゼシカーッッ!!」
 ぇ…? バカ…どうして助けようとするの!? アンタも道連れになるかもしれないのに…。
 ククールの声を最後に私の意識は闇に飲まれた。




「うぅん………私、助かったの?」
 目を擦って開け、身体を軽く捻ってみる。特にどこかを痛めた気配は無いみたい。
 辺りを見回して私はハッとする。
「…ククール? ちょ…ちょっと、この怪我………」
 私を庇ったの…? しかも抱え込むように?? そうでなければ私が殆ど無傷なはず無いもの。それでアンタは大して受身も取れなかったって言うの…!?
「…バカ! 何で庇ったりなんかするのよ!!」
 自然と言葉が口をついて出た。私はどうしていいのか分からない。
「…言ったろ…君、だけ…を守る、騎士に………」
 いつもとは違う柔らかい表情、そして同時に苦痛に顔を歪めるククールが痛々しい。直視するのが耐えられない程に。
 ずるいわよ…何でアンタが私を庇ったりするのよ!
 私は自然とククールを抱き寄せた。すると、みるみるうちに彼の肩から力が抜けていく。
 ククールに触れた私の両手は朱に染まっていた。利き手からは血が滴り、顳かみも赤黒く変色している。自慢の白銀の髪は血が点々と付着し、土に塗れて輝きを失っていた。
 何とかしないと………そうだ、アモールの水があったはず。
 こんな状態じゃアモールの水くらいでは焼け石に水だって事ぐらい分かってる。でも、私のせいでこんな目に遭わせてしまったから…だから、私が今出来る事は何でもしてあげたい。
 私はアモールの水の入った瓶の蓋を開けてククールの唇にあてがった。でも、無理だった。既にククールは自力で薬を飲める程の体力さえ残っていなかった。
 これじゃあ………でもっ…。
 私はある事を思い付いた。でも、そんな事をするのはかなり抵抗があった。だけど、このままククールを見殺しにする事は出来ない。第一、生死の賭かった状態でそんな事は言ってられない。
 私は覚悟を決めた。
 自らアモールの水を呷り、彼の頬に両手を添える。そのまま、ゆっくりとククールの唇に自らの唇を重ねた。
 ファーストキスがこんなにも哀しくて切ないなんて………。それが、どんな意味か…私、ちゃんと気付いたよ…。だから、ククール…目を覚ましてよ………。
 私の目から一筋の涙が頬を伝ってた───。




 オレはゼシカを庇ってそのまま崖から転落した。彼女には傷を負わせないように大事に抱え込むようにして…。オレ自身は受身が取れなくなるが、それは覚悟の上での事。いつもの打算的なオレじゃない。ただ、ゼシカを守り抜けるならそれで構わなかった。
 崖から落ちた後の記憶が殆ど無かった。ただ記憶にあるのは誰かが泣いていた事…それから………。
 オレは薄らと目を開けた。すると、ゼシカが悲愴な顔でオレを見ている。
「ククール、良かった………」
 オレは…助かったのか? 本当に??
 悪運の強い奴だな…と自身を皮肉りたくなる。だが、途切れ途切れの記憶の欠片の中に、自分自身の口許に残る僅かな温かみを感じた。それが意味する事は………まさかな…そんなはずあるわけないだろ。
「飲める?」
 オレが目を覚ましたのを確認したゼシカはアモールの水をオレに手渡そうとした。
「あぁ…でも、出来ればオレはゼシカに口移しで…飲ませてもらいたいな」
「バカ…っ…自分で飲みなさいよ!///」
 顔を真っ赤にしたゼシカは瓶をオレに押し付けてきた。
「でも…良かった。軽口叩けるなら少しは安心ね」
 優しい笑み。ゼシカがオレに対してそんな顔をするなんて珍しい。
「口移しが駄目なら…せめて膝枕だけでも。ほら、オレ…動けないし」
「もぅ…! 今回だけよ………」
 口許だけは怒っていたものの、やはりゼシカの瞳は慈愛に溢れていた───。




 でも、本当に良かった…。ククールが目を覚ましてくれて。同時に私は自分でも驚くぐらい大胆で大変な事をしてしまった事に気が付く。本当に顔から火が出そうだわ…///
 勿論この事はククールには内緒。
 ただ、いつもの計算尽くじゃないククールが私は嬉しかった。本心を見せてくれたような気がして…。
 だから…今日だけは、ね?
 私はククールに寄り添った───。

後書き

 シリアスっぽくなったでしょうか…? 痛々しいククール万歳!(マテ) あの描写がとても気に入っています。色で視覚的に訴えるのって成功するととても素敵な文になるんですよねぇ…私のはさておき(苦笑) 今回はククゼシでは初の両者1人称で書きました。話自体はいつもより短いですけど。バカリスマやエロカリスマなククールも大好きですが、計算尽くじゃないククールも個人的にはかなり萌えですvvv ツボですよ♪(マテ)

プロット※要反転

 ゼシカ1人称&ククール1人称。まだあんまり仲良くない(でもゼシカは少しだけククールの事を認め出した頃)2人前提。
 夜の戦闘中に足場が不安定な崖に追い詰められたゼシカは滑って落下。ククールが間一髪のところで助けるが、2人共落下。

 ゼシカを抱え込むようにして庇ったせいでククールは酷い怪我(顳かみ、利き手、右足ら辺血が滴る)。

ゼシカ「…バカ! 何で庇ったりなんかするのよ!!」(泣きそう)
ククール「…言ったろ…君、だけ…を守る、騎士に………」
ゼシカ「(ずるいわよ…何でアンタが私を庇ったりするのよ!)」

 ククール意識不明。銀髪に土が付いて汚れている描写。ゼシカが嘆くシーンを長めに。
 ゼシカ、所持していたアモールの水を使う。ククールを抱き起こし、口にあてがう。…が、飲む気配無し。
 ゼシカ悲愴な顔をしつつ、言い訳しながらそっとククールに口移しで飲ませる。

 ククール1人称にチェンジ。
 ククール、まどろむ意識の中で自分の力が戻るのを確信する。

ゼシカ「あぁ…目を覚ましてくれて良かった」

 ククール、口許に微かに温かさを感じる。ゼシカからアモールの水を受け取る。

ククール「ゼシカ…お願いだ。口移しで飲ませてくれ」
ゼシカ「もぅ…変態っ!///」

s  ゼシカ、怒ってみせるが何もしない(原因は本当に口移しをしたから)。

ククール「ちぇ…じゃあ、膝枕して欲しいなぁ、ハニー♪ 俺、ほら…動けないし」
ゼシカ「今回だけよ…」

 ゼシカに1人称チェンジ。ゼシカの照れながらの独白。でも、ちょっと暗めの雰囲気に。

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