ゴールデン・サン───それは太陽のように黄金色に光り輝く幻の、バラ。
それには旅先で聞いた、1つの言い伝えがあった───。
「あぁ、退屈だ………」
ファリスはいつものように私室にいた。どうやら城での生活が堅苦しいことを、ぼやいているらしい。
「何が退屈なんだ?」
「………!」
返事が返ってくるとは思わなかったのだろう。ぼやきを零していた当の本人は硬直して動けないでいる。
「久し振り、ファリス」
「なっ、そんなとこから、いきなり入ってこなくても………」
ベランダから侵入したことを、この部屋の持ち主は咎めた。
───というよりも拗ねたような目をしていた。
「たまたま側を通ったから寄ったんだ、ここに」
嘘だ。
俺は………我慢できなくて、ファリスに逢いに来たんだ。
「丁度いい、外の話を聞かせろよ」
「ああ、いいぜ」
ベッドに腰掛けたファリスが手招きで俺を呼ぶ。
俺はファリスの隣に座った。
「───でな、向こうは暖かかったし、珍しいもんがいっぱいあったぜ」
「そうなのか?」
「特に凄かったのが秘境と呼ばれる渓谷にひっそりと咲くバラだ」
ゴールデン・サンと呼ばれる、幻のバラ。
「いいな、そういうの。オレも見てみたい」
「ファリスならきっとそう言うと思ったよ。俺は都合で昼間に見に行ったんだけどな、夜に見ると、それはもう幻想的らしいんだ」
俺は更に話を盛り上げた。きっとファリスなら乗ってくるに違いない、そう思って。
「………バッツ」
「ん?」
「連れてってくれ」
こうもストレートに言われるとは思ってもいなかったが………。
「じゃあ、これだけは守れよ。1週間だけの旅だからな」
「ああ………」
「今夜迎えに来る。支度、しとけよ」
そう言い残して、ファリスの部屋を後にした。
「遅かったな」
「悪いな、レナからなかなか許しをもらえなかったんだ」
俺は弁解した。本当は勝手に連れ去ってしまいたかったが、そうすればこの城はまた大騒ぎをするだろう。
レナの心労が増えるのは嫌だったし、後々面倒なことになる。だから、俺はレナを言い包めた。
レナの方はレナで、ファリスが退屈しているのは知っていたし、たまには息抜きも必要だということで何とか承知してくれたのだった。
「じゃあ、行くか」
目指すは秘境───トーラス渓谷。
(ファリスと2人旅か………)
実はファリスと2人きりで旅をするのは初めてだった。
「寒くないか?」
「ちょっとな………」
「じゃあ、これ使ってろ」
俺は自分のマントを外してファリスに手渡した。
「それじゃあ、お前が………」
「俺は大丈夫だから」
そう言って、ボコに乗る。
本当はちょっと寒かったが、それでも俺は平気だった。
………側に、ファリスがいてくれたから。
リックスで、渓谷に行くための準備をし、更に北上。
既に3日が過ぎていた───。
「いよいよだな」
「………ああ」
頂上に咲き乱れる、ここにしか咲かない幻のバラ。
「どうだ、いい眺めだろ?」
「ああ、そうだな」
真夜中にここを訪れると、まるで太陽のように神々しく、そして神秘的な世界に足を踏み入れたみたいだ、と教えてくれた人は言っていた。
実際その通り、いやそれ以上だった。
「真夜中の太陽………きれいだな」
その幻想的な世界をファリスは踊るように飛び回る。
(太陽のように美しいバラさえも、背景にしてしまう………)
俺はその光景をただただ見守った。
「………………ファリス」
「うん?」
「ありがとう」
「おい、止せよ。お礼言わなきゃいけないのはこっち───」
俺は有無を言わさず、ファリスを抱き締めた。
ファリスはというと、顔を赤くして俺の胸元で俯いている。
「実は、この前旅先で聞いた話にはまだ続きがあってな………。意中の人をこの場に連れてこれたら、その恋は成就するんだってさ」
夜の風が優しく俺達を包む。
空の星々は温かな光で俺達を見守る。
そして、ゴールデン・サンが俺達を祝福してくれる………。
俺はファリスを腕に抱いたまま、黄金のバラを見つめた。
暫くして、視線をファリスの方へ戻す。
その視線が、ぶつかった。
「オレは………幸せ者だな」
「そうだな………」
たった1週間だけの、けれど2人きりの旅。
その最後を彩る幻想的な光景を、俺は忘れないだろう。
この先も、ずっと………。
後書き
最近2人の行動が随分と軽卒に感じられたので、少し雰囲気を変えてみた………つもりです(変わっていない?)だって、簡単にキスとかしまくりなんだもん(爆)某サイト様の素敵なバツファリ小説を読んで、あぁ、うちの2人は最近軽過ぎだなぁ〜、と思い、今回はバッツが抱き締めるだけにとどめました。4つ目の愛、いかがだったでしょうか?