32 残された手紙

 オレ達はエクスデスを倒した───。
 無の力で失われた城や街、村もほぼ元通りになった。


「レナ女王陛下、サリサ姫、そしてタイクーンの平和に乾杯!」
『乾杯!!』
 それから毎日のように宴が続いている。
 オレはドレスを着ているのが窮屈で嫌だったので、正直うんざりだった。第一、オレにあんな女らしい格好なんて似合わないし………。
 そんなことをバッツにぼやいた。いつものように人影のない、バルコニーで。
「そうか? 俺はドレス姿も似合ってると思うぜ」
「バッツは世辞が上手いな」
 どうも、しっくり来なかった。
「これ、動きにくいんだよな………」
「お、それはいいことを聞いた」
 バッツは悪戯っぽい笑みを浮かべた。そして、素早く動けないのをいいことにバッツはオレの身体を思いっきり抱き締める。
「うっ、放せっ///」
「嫌だね」
 バッツは慈しむように腰に腕を回す。
「本当に、細いな」
「悪かったな」
 バッツの体温が伝わってくる。温かい、その手の温もりが………。
「………………バッツ」
「ん?」
「………なっ、何でもない///」
 いつもならしてくれるはずの行為がないことを、オレは言いたかった。
 けれど、オレのプライドがそれを許さなかった。
「………ファリス」
「?」
 バッツは一呼吸置いた。オレにはバッツが何を言おうとしているか分からなかった。
「言わなくてもバレバレだぞ………目が、訴えてる」
「………///」
 バッツはそう言うとすぐにオレの唇を、塞いだ。
 お互いの身体が融ける程に長く、深く………。
「ファリス、幸せになれ………」
 長い長い口付けの後、バッツはオレの耳元でそう囁いた。
 けれど、この言葉の真意をオレは知らなかった。


 翌朝───。
 オレはいつものようにバッツの部屋の扉をノックした。
(返事がない? おかしいな………)
 オレは少し躊躇ったが。
「バッツ、入るぞ」
 そう言ってドアを開けた。


 ───そこにあいつの姿は、なかった。
「バッツ!?」

 ───ファリス、幸せになれ………───

 開けっ放しにされた窓から冷たい風が吹きつける。オレは昨夜のバッツの最後の台詞が、引っ掛かった。
「バッツ………」
 オレはテーブルの上に置かれた手紙を見つけた。
 そこにはあいつの字でこう書かれていた。

 ───俺は、また暫く旅に出る。一緒にいてやれなくてごめんな。───

「バッツのバカ野郎! どうしてっ!!」
 バッツは………あいつは黙ってオレの前から姿を消した。
「お前がいなきゃ、オレは………っ!」
 オレはショックだった。急にバッツがいなくなるなんて、考えられなかった。
 今すぐにでも、後を追い掛けたかった。
 けれど………。
(そうするわけには、いかない………)
 最後の理性でオレは自分を制止する。
 同時に悔しくって、涙が自然と頬を伝った。
 大粒の涙が幾つもその手紙の上に零れ落ちた。
 オレは涙で手紙がぐちゃぐちゃになって読めなくなるまで、泣き続けた───。

後書き

 前半は甘いです。ええ、甘いですとも(笑) 後半は対照的にしょっぱいです。ちゃんとメリハリがついたかな? バッツは自分がファリスを幸せにしてやることができない、と思って放浪の旅へと姿を消したのです。ファリスを幸せにしてやれるのはバッツだけなのに………。たぶん、バッツは最後の別れ(この時点では)をするためにファリスと口付けを交わしたのでしょう。「04 薄闇の中で」と並んで気に入っています。

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