20 しなやかな指先

 う〜ん、ここをこう押さえて…でもって、親指をここに当てて…。
 私はサザンビークのバザーで買ったオカリナを吹くのに悪戦苦闘していた。このオカリナ、花の模様が描かれてて、思わず人目惚れしてしまったの。それで自分のお小遣いで買った…のはいいんだけど。
 オカリナって私、吹いた事無いのよ…ピアノやバイオリンなら出来るんだけど。説明書見てもさっぱり分からないし…どうしようかなぁ。
「ゼシカ、オカリナ吹けねーのか?」
「何よ、だからこうして頑張ってるんじゃない」
 私が椅子代わりに使ってた平らな岩にククールは同じように腰を掛けた。相変わらずニヤニヤした軽薄な笑みを浮かべつつ。
「右手の人差し指をここに当てて───」
 ククールの大きな手が私の手を優しく包み込む。彼の手に導かれるままに私は手を動かした。何だかとても距離が近いのを変に意識してしまって、私の心臓はトクンと早鐘を打ち始める。
 ククールは…私がこんな思いをしているって気付いてるのかしら?
 もし気付いてたらそれは確信犯だって事になる。
「押さえ方が甘いんだよ。だから空気が漏れちまうんだ」
 より近くなる距離…。ククールは後ろから私の手に自らの手を重ねる。
 私の手より大きな手。けれど、端整でしなやかな指先に私は思わず見蕩れてしまう。
「ほら、やってみろよ」
「ぇ…あ、うん」
 私は自力で吹いてみた。けど、やっぱり上手く行かない。
「あぁ? ゼシカ、人の話を聞いていたか? だから、こうやって───」
 ククールは私の手からオカリナを取ると徐(おもむろ)に吹き始めた。
 ゆったりとした曲調の、それでいてどこか哀しいようなメロディーが紡がれる。それは…まるで彼の心の中を如実に表しているようで、私はとても気掛かりだった。
 ククールの手と口から紡ぎ出される旋律はあまりに儚くて美しい。それは私が彼の音律の虜になりそうな程に…。


「…っと、まぁこんな感じだ。………ってゼシカ?」
 ククールが私の顔を覗き込む。
 私はハッとして顔を背けた。
「ゼシカ、さっきからおかしいぜ? どうしたんだよ」
「うっ…うるさいわね…。アンタなんかには関係ないわよ!」
 だって…ククールに見蕩れていたなんて口が裂けても言えないじゃない///
 と、慌てて私がククールの気を逸らそうとした時。
 私はもっととんでもない事に気付いてしまい、激しい羞恥心に襲われた。
「…何赤くなってんだよ。ぁ、もしかして間接キスした事気にしてんのか?」
「………!///」
 やっぱり確信犯なのね! 本当にサイテーだわ!!
 そう、言いたかった。でも、こんなの…あまりに恥ずかし過ぎる///
 結局私はククールに言葉を返す事も出来ず…。
 あぁ、「穴があったら入りたい」っていうのはこういう事を言うんだわ…。
「あれ…? 当たりなの?? ゼシカってホントにウブだよなぁ…そこが可愛いんだけどさ」
 ククールは相変わらずの軽薄な笑いを浮かべている。
 ほんと、手玉に取られてるみたいで悔しいわ…。


「いつか、間接じゃなくて直接してやるよ」
「〜〜〜///」
 耳許で囁かれた甘い甘い言葉に私は顔は勿論、耳の先まで見事に熱を持っていくのが分かる。
「…あぁ、もぅ! アンタなんかに聞かなければ良かった!」
 ククールの手からオカリナを無理矢理奪うと、私はその場を立った。
 後ろからククールの声が何か聞こえたような気がしたけど、姑くは口なんか聞いてあげないんだから…っ!
 そう、誓いながらも私はこっそりとオカリナを口許へと近付けた。
 勿論、ククールなんかに見つからないように。
 オカリナにはまだ彼の温もりが残っていた───。

後書き

 素直じゃないゼシカちゃんが無性に書きたくなって最後の部分をアドリブで書いてしまいました(笑) 間接キスシチュ萌えですvvv 勿論、直接のキスも好きですが、いいじゃないですか…何だかまた違った感じで。ククールの吹く曲の旋律が哀しい曲なのは生い立ちから考えての事です。シリアスな一面をほんの少し見せつつ、最後はいつものノリで。そんな感じですね。個人的にはククールの「いつか、間接じゃなくて直接してやるよ」に萌えました(マテ)

プロット ※要反転

 ゼシカ1人称。
 サザンビークのバザーでオカリナを買ったゼシカは上手く吹けずに苦戦。ククールが指導。………間接キス!?(笑)

 ゼシカ、間接キスしてしまった事に気付き顔を赤らめる。

ククール「…何赤くなってんだよ。ぁ、もしかして間接キスした事気にしてんのか?」
ゼシカ「………///」
ククール「あれ…? 当たりなの?? ゼシカってホントにウブだよなぁ…そこが可愛いんだけどさ」

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