04 薄闇の中で

 とある山道でのこと───。
「そろそろテント張ろうよ〜」
「そうね、今夜はこの辺でどうかしら?」
 レナもクルルも歩き疲れた、という表情だった。
「じゃあ、今夜の見張りの組み合わせを決めようぜ」
 ファリスが言った。
「ねぇ、たまにはクジ引きで決めない?」
「それもいいな」
 レナの提案にバッツが賛成した。いつもはジャンケンでパートナーを決めているのだが、たまには違う決め方もいいだろう、ということらしい。
 クルルが紙を4枚用意し、○と☆のカードを2枚ずつ作った。
「じゃあ、姉さんかバッツから引いて。私は最後でいいわ」
「あたしもっ! 『残り物には福がある』って言うしね」
 というわけでバッツとファリスが先に引いた。
 その結果………。
「俺は☆だぜ」
「あ、じゃあ今日はバッツとだな」
 ファリスは苦笑しながら紙切れをレナとクルルに見せた。


 そして、その日の夜───。
 いつもならテントの側で焚き火をするのだが、今日は午前中に雨が降ったせいで地面が湿っていたため、見張りは近くにあった程よい大きさの洞穴の中で火を熾して行った。
『………………』
 2人共、無言だった。
 久し振りにこの組み合わせだったためであり、お互いを意識してしまうためでもあった。
(何か言わなければ………)
(こういう時って………その、何か話した方がいいんだよな)
 2人を取り巻く空気が何だかぎこちなかった。
「な、なぁ───」
「あ、バッ………」
 同時にお互いが声をかけようとして、思い留まる。まさか相手も同じような行動に出るとは思いもよらなかったのだろう。
「ちょっと………暑いな」
「え?」
 意外なバッツの台詞だった。
「ファリス、寒いか?」
「平気だけど………」
 ファリスの答えを肯定と取ったバッツはおもむろに立ち上がった。
 そして………。
「凍てつけ、ブリザド!」
 あろうことか、焚き火の炎を冷気の魔法で消したのだった。
「バッツ、何をするんだよ」
「火なんかまた後でつければいいだろ」
「そりゃそうだけど………」
 ファリスは口籠った(くちごもった)。バッツの考えていることがつかめないらしい。
「明るかったら恥ずかしがるだろ、お前は」
 まぁ、俺はどっちでもいいんだけどね、と付け加えるバッツ。
「???」
 バッツはファリスに近づき、身体と身体が触れる寸前の、その微妙な距離でバッツは立ち止まった。
 ファリスはまだ分かっていないらしい。ぽかんと口を開けている。
「だ・か・ら! こうするってことだよ」
 呆れた口調でバッツは言うと、ファリスを思いっきり抱き締めた。
「バ、バッツ!///」
「ファリス………………好きだ」
 抵抗の言葉も、バッツの甘美な唇が触れた途端に失われた。
「ファリスは………俺のこと、嫌いか?」
 勿論バッツのことは好きだった。仲間として、そして………それ以上に。
「嫌い、なわけな………ああっん!」
 しかし、ファリスは答えを言うことができなかった。というのはバッツがファリスの整った項(うなじ)に息を吹きかけたためである。
 首筋と項はファリスの弱点であることをバッツは知っている。そこを責められると、ファリスが抵抗できない、ということも………。
「さて、そろそろ交代の時間かな」
「バッツのバカ………今日のお前、意地悪だぞ」
 しれっとした顔をして何事もなかったかのように言うバッツにファリスは少し腹が立った。
「ん? それともファリス、最後までして欲しかったとか」
「〜〜〜っ!///」
 声にならない怒りを露にしてファリスはバッツを見据える。彼女がこんなにも怒るとはさすがにバッツも思わなかったのだろう。
 バッツは悪戯っぽい笑みを浮かべていたが、
「嘘だ、ファリス。そんなに怒るなよ」
 そう言って、ファリスの顎を取って上向かせる。
 そこには先程まで怒っていたファリスの顔はなく、代わりにあったのは頬を上気させてほんのりと色気の漂わせている、大人の顔だった。
 バッツはそんなファリスの顔を眺めながら、ゆっくりと彼女の唇に自分の唇を重ねた───。


「(今頃姉さん達、きっといいムードになってるわよ)」
「(ほんとは覗いてみたいんだよなぁ〜)」
 実を言うと、あのカードに○など始めから書かれていなかった。
 そう、レナとクルルはカードを仕組んだのだった───。

後書き

 あぁ、やってしまった。今回は「ちょっぴり意地悪なバッツ」を書こうと意識しました。その結果………。バッツ君、単なる色情狂になって………ゲフゲフッ! 何だか短編は最近、勢いだけで書いているような気がします。やはり「Lunatic Feel」に引き続きバッツが………あわわ、という感じです。そもそも「100ノアイ」にチャレンジしたのはカップリング書きたい! でも、ネタがないっ!! というためだったのですが………(汗)

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