03 ふたりぼっち

 俺達はタイクーン王の飛竜を探すべく、カーウェンの側の北の山へと足を運んだ。
「ここの魔物、強いわね」
「そうじゃな………」
 手を休めることなく俺とファリスが剣を振るい、後ろでレナとガラフが白魔法と黒魔法で俺達を援護をする。ロックガーターやブロックスならばそれで事足りるが、ゲイラキャットとなると話はまた別だった。
「くそっ、リーチが足りねぇ」
 俺はぼやいた。いくら長剣といえども、相手が空を飛べるせいで圧倒的に距離が開いていしまう。
 なら、魔法で撃ち落とせばいい、と言いたいところだがそれも無理だ。頂上まではまだあるし、回復のために魔力はできるだけ温存しておきたいからだ。
「うわっ!」
「ファリスッ!」
 その場は崩れやすくなっていた。
(しまった、俺のせいだ! 場をしっかり見極めなかったから………)
 思いながら俺は後ろで戦っていたファリスの方へ駆け寄って、間一髪のところで崖から落ちそうなファリスの手を掴む。
「バッツ!」
 レナが叫ぶ。
「くそっ!」
 そんな状態の俺達を容赦なくゲイラキャットは攻撃してきた。
 その攻撃のせいだったのか、それともその場が脆かったのか………。
「うわぁっっ!」
 絶叫と共に俺達は転落してしまった。


「いてててて………………」
 俺はその場から立てなかった。落ちた時に背中を強く打ち付けたらしい。
(ファリス………気を失っているのか?)
 ファリスは微動だにしない。
 咄嗟に庇った俺が生きているんだからさすがに大丈夫だとは思うが………。
(それにしても………生きているなんて不思議だよな)
 元の場所からかなり下まで転落している。普通なら明らかに死んでいる高さからの落下だった。
 ということは………?
(確かに風の神殿で聞いた声があの時、頭に響いた………)
 俺は落ちる瞬間のことを思い出し、1つの結論に至る。
 それは、風のクリスタルの力で助かったというものだった。というか、それ以外有り得ない。
「………バ………ッツ………助かった、のか?」
「ファリス、大丈夫か?」
 ここは? と、ファリスは俺に聞いてきので、俺は大体の状況を説明してやった。
「どうするんだ? つーか、お前………」
「ああ………背中を酷く打ち付けたみたいだ………」
 全く、情けなかった。
「バカ………何でオレを、庇ったんだ」
(あの時既に気を失っていたんじゃ………?)
 俺がファリスを抱きかかえた時には既に意識はなかったはずだ。
「意識は混濁していたけど、そんくらい、オレにだって分かる」
 ファリスははっきりと言い切る。
 俺は一瞬間を置いてから、その問いに答えた。
「別に………特に理由はない。仲間を守って何が悪───」
「オレが女、だからか?」
 俺の言葉を遮ってファリスはさらに問う。
「………自分でも知らないうちに気がついたら、そうしていただけだ」
「本当にか?」
「ああ、本当さ」
 別に俺は嘘をついてはいなかった。むしろ、理由をつけるなら他のところにあったのだが。
「オレ………ケアル、使えるから治してやるよ」
「大丈夫さ、少し休めば治る」
 俺は無理をしてそう言った。
 元々俺がしっかりしていなかったのが悪いわけだし。
「あのなぁ、お前───」
 ファリスは視線を外しながら続けた。
「怪我しているの、背中だけじゃないだろ………。全く、無理し過ぎだ」
 ファリスには全部ばれてしまっている。
「ばれたか………」
「あったりめーだ!」
 何だかこんな状況で言うのも変だが、俺は嬉しかった。
「ほら、怪我してるとこ出せよ」
 俺は素直にファリスに従った。
「我に恵みを………ケアル!」
 すっと、和らいでいく痛み。
「オレ、あまり魔法得意じゃないからこれぐらいしか治せないけど………」
「サンキュ、だいぶ楽になった」
「バカ、礼を言うのはオレの方だ。………ありがとな」
 俺達は顔を見合わせて笑った。


 それからレナとガラフに合流できたのが約2時間後のこと。
「大丈夫だったのね! よかった………」
「本当じゃ、あの高さからだったら死んでもおかしくなかったぞい」
 レナとガラフは俺達のためにわざわざ引き返してくれたらしい。
「ああ、風のクリスタルが衝撃を和らげてくれたんだ」
「なるほど、それで助かったのか………」
 実際のところ本当かどうかは、俺も分からないが。
「ファリスは、どこか痛いところとかないの?」
「あ、ああ。オレは大丈夫」
 言いながらファリスはオレにだけ見えるように、こっそり視線を送ってきた。
 俺も、同じようにして視線を返す。
「ふーん、何か怪しいわね………」
「まぁ、いいじゃろう。先に進むぞい」
 俺達はガラフの気の聞いた台詞のお陰で何とか詳しく説明せずにすんだ。
 しかし、それも結局束の間に過ぎず、後に改めてレナに聞かれる羽目になるのだが───。

後書き

 バツファリ………というよりコンビが正しいかもしれない。もし、バツファリとして考えるならたぶん今までの作品の中で1番砂糖控えめでしょう。「ふたりぼっち」って聞いて1番最初に浮かんだのが、ファリスが崖から落ちそうになってバッツが助けようと手を伸ばすが、結局2人共落下するというシーン。Fairyは(殊に短編では)メインのシーンを描いてから大体のお話を考えるので、これが物凄く重要でした。5つ目の愛は恋というよりも仲間愛や友情という感じに仕上がったと思います。

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